わかりあえなくてもいい。人と触れあえば摩擦で光が起こる――切なくまぶしい青春小説『スベらない同盟』

文芸・カルチャー

2019/9/12

『スベらない同盟』
(にかいどう青/講談社)

 自分の想いや意見を表明するには、多少なりとも勇気が必要だ。たとえば、友達に変な癖を直したほうがいいよと伝えるとき。たとえば、上司に辞表を提出するとき。そしてたとえば、ビルの屋上から飛び降りるとき――。言葉や行動になってはじめて、周囲はその人が抱えてきたものを知るのだろう。

 もちろん、『スベらない同盟』(にかいどう青/講談社)の主人公・レオが抱えているものも、周囲の人間にはわからない。

 レオは、パンクを愛する中学2年生。登校すれば同級生から親しげな声がかかり、軽音楽部では後輩に慕われていて、教員からの信頼も厚い。学校という密閉空間の中でも、ヒエラルキーの上層にいる人気者だ。だから、新学期のクラス替えで、近くの席になった冴えない転入生男子・藍上が、ひとりでいるのが気になった。

 藍上は、ルックスもぱっとしないし、レオのようなトークスキルも運動能力もない。いつもまわりに無関心な様子で、ひたすら本を読んでいる。学校という組織の中でひとりになることほど、こわいものはないというのに。おまけに彼は、素行の荒れたクラスメイトに目をつけられていた。いわゆる、いじめの気配があるのだ。

 そんな中、レオは軽音楽部顧問でもある担任教師に、藍上のめんどうを見てやってくれと頼まれる。しかたなく藍上を軽音部に勧誘し、距離を縮めようとするうちに、レオはとあるきっかけから、彼の文章の才能を見出した。

 教室内ポジション上位のレオと仲がいいというだけでも、藍上の存在価値は上がるだろう。――そんなふうに、藍上のことを見下していたのかもしれない。ともかくレオは、藍上が書いた台本で、いっしょに漫才をすることを思いついた。

 漫才の発表目標は文化祭、コンビ名は「スベらない同盟」。ところがレオは、ささいなできごとから教室内ヒエラルキーの最下層へと転落してしまう。さらには、レオが教室内に居場所を作ってやろうとしていた藍上も、レオのもとを去ってゆき…。

 藍上は、レオが心の内に抱えている“穴”を知らない。同様にレオにも、藍上がなにを考えているのかはわからない。けれどレオは、知りあったばかりの藍上が教えてくれた「摩擦ルミネセンス」──ガムテープの粘着面同士をくっつけてからはがすと、摩擦が生じて青く光るという現象に感動した。幼いころ大切にしていた、パンクな心を思い出した。パンクとは、ほころびがあり孤独でも、気高く力強く叫ぶことだ。

“スベらないのは、摩擦のおかげ。
人と人のあいだにだって摩擦は生まれる。
その結果、傷つくし、傷つける。
でも、だからこそ、あの一瞬の光は美しく、レオの心をとらえて放さない。”

 たとえ傷つけあったとしても、触れることなしに光は得られない。わかりあう必要はない、ただ傷を恐れず、触れあう勇気が要るだけだ。本作に青春時代のきらめきが見えるのも、この物語と読み手の心が、触れあい、こすれあっているからに他ならない。ゆえに本作の読み心地は、きらきらとまぶしく、ちょっとだけ切なくて痛い。

 終盤に明かされる意外な展開も含めて、ラストまで読み手の胸のやわらかいところをぎゅっとつかみ続ける本作。読了後、あなたはきっとはじめのページまで戻り、本作に込められた想いのひとつひとつに、ふたたび触れずにはいられなくなるだろう。

文=三田ゆき