【2020年『このミス』大賞受賞作】「紙鑑定士」×「プラモデル造形家」が織りなすウンチクたっぷりの新感覚ミステリー

文芸・カルチャー

2020/1/28

『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』(歌田年/宝島社)

 私たちは、目や脳だけでなく、手を通して、本を味わっている。本を手にとった時のカバーの感触。見返しの温かなざらつき。めくるページの滑らかさ…。普段は意識していなくとも紙には、いろんな表情があり、その世界の奥深さは計りしれない。

 第18回『このミステリーがすごい!(このミス)』大賞受賞作に選ばれた『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』(歌田年/宝島社)は、そんな「紙」をどんなものでも見分けることができる「紙鑑定士」と、類稀なるプラモデルの知識をもつ伝説の「プラモデル造形家」が謎を解き明かすミステリー作品。『このミス』大賞といえば、海堂尊氏の「チーム・バチスタの栄光」シリーズや中山七里氏の『さよならドビュッシー』など、多くの大ベストセラー作品を生み出す賞として知られているが、本書も大きな話題を呼ぶこと間違いなしの作品だ。

 主人公は、神保町で紙鑑定事務所を営む男・渡部。物語は、彼の事務所に、「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした女性が、「彼氏の浮気調査をしてほしい」とやってくることから始まる。手がかりはピンボケしたプラモデルの写真一枚だけ。渡部はダメ元で調査を始めるが、伝説のプラモデル造形家・土生井(はぶい)と出会ったことで事件は解決へと導かれる。そして、紙鑑定事務所の推理能力の高さを聞いた別の女性が、渡部の事務所に「行方不明になった妹を探してほしい」と、妹の部屋にあったジオラマを持って訪ねてくるのだ。渡部は、土生井とともに再び模型を調査することになるのだが、その中に恐ろしい大量殺人が示唆されていることに気づき…。ジオラマにはどんな真相が隠されているのか。渡部と土生井は、事件を解決することができるのだろうか。

 専門的な知識を基として描かれるミステリー小説はこれまでも数多くあっただろう。だが、「紙鑑定士」や「プラモデル造形家」という特殊な職業をテーマとした物語はないだろうし、ましてや、その2つを組み合わせた作品なんて見たことがない。作者の歌田年氏は、29年間の出版社勤務中にプラモデルと紙の専門的な知識を培った人物。「自分の専門性を活かした作品ならば他に類がないので、この題材を扱うことで賞を狙いにいった」のだと言うが、その戦略が生み出したこの物語は、『このミス』大賞選考委員たちも満場一致の高評価だったのだとか。「紙鑑定士」と「プラモデル造形家」という、今まで見たことのない未知のキャラクターの活躍に、あなたもきっと目が離せなくなる。

 特に、渡部の相棒となる、土生井という人物には誰もが惹きつけられるだろう。土生井は、ごみ屋敷に住む冴えない中年男だが、模型のことが絡むと驚くべき洞察力と知識で、名推理を披露するのだ。どんな紙でも見分けられる渡部の知識と合わせれば百人力。彼らの知識で巧みに事件の謎が解き明かされていくさまに、読者は快感すら覚えるだろう。

 またこの書籍には、面白い仕掛けがある。事件の謎を解く重要証拠品となる“紙”を実際に本の中に綴じ込んであるのだ。さらに、本の折ごとに紙の種類を変えた作りになっているから、「さっきまで読んでいたページとこれから読むページの紙が違う!」などという風に、物語の本筋と一緒に、紙の違いを楽しむことができるのだ。

 紙鑑定士とプラモデル造形家。2つの専門的知識のマリアージュにいつのまにかあなたも魅せられ、ページをめくる手を休めることができなくなるに違いない。今まで読んだことのない新感覚のミステリーをあなたも是非体験してみてほしい。

文=アサトーミナミ