SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第12回「三十」

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更新日:2022/6/27

 これから綴る気持ちは、本当は三十代に突入したらすぐさま伝えたかったことである。しかし三十代に突入したばかりの三十代素人が伝えたのではどうにも説得力に欠けると思い、三十五を越えて尚、同じ気持ちを持っていられたらきちんと伝えようと決めていたのだ。

 温めに温めた気持ちだから、なんだか正直小っ恥ずかしい。咄嗟のことであったならすぐに言葉に出来たかもしれないのに、好きなあの子を想って言葉を見繕ったばかりに想像以上のウエイトがかかって言い淀んでしまう、あれに似ている。

 少し緊張するけど、ようやく堂々と言える。よかった。

 いきます。

「三十過ぎたら変わる」って言う人を、私はこっそり軽蔑しています。

 わア、意外とすんなり言えた。そして失礼、正しくは『安易に言う人を』である。

 二十代の頃、幾度となく先輩からもらった言葉であるが、そんなわけねエだろ、と心の底から思っていた。その理由として、どういうわけかこれを口にする人間は往々にしてどこか怠惰だったからだ。もちろん例外だっている。どうしても抗えなかった何かがその人には存在したという事例も知っている。ただ、腹の肉が落ちなくなったという人間は、ろくに運動らしい運動をしていなかったし、体力がなくなってきたという人間は、そもそもまともに体力なんてなかった。

 ここぞとばかりに三十代を理由にして、己の怠惰がもたらした結果を道理のように説き出す。何もしていない人間が口にするこれらの言葉の軽薄さと言ったら、もう。本当に、もう。

 もちろん日々死に近づいているわけであるからして、逃れられないものがあるのは事実だ。

「成長」が「老い」に変わる時期は誰にだって間違いなくあるだろう。今までのようにいかなくなるという経験は、間違いなく誰しもが経験することだ。

 だからすなわち。

 経年を憂う権利は誰にだってあるが、経年の憂いを人に説く権利は万人にあるわけではない。ということだと思う。

「体重まじ落ちなくなるから、気をつけた方がいいよ」
「もうすぐ今までみたいに動けなくなるから」
「よくそんな食べられるね、俺もそんな時期あったわ」
「前のめりの姿勢がもう可愛く見えてきちゃった」
「朝まで遊ぶなんて、私の歳じゃ考えられないよね」
 いずれも先輩が「三十過ぎたら変わる」とおっしゃった後に、二十代の私に向けてのたまわれた言葉であるが、響くぜ、と思わせてくれた先輩は悲しいかな一割以下だ。その物事と真っ向から向き合い、且つ説得力を生むほどの結果が表面化している人間にしか、経年の憂いを他人に説く権利はない、ということなのだろう。

 残りの九割は、例えるなら冷蔵庫に入るという手間さえ怠った生菓子だ。「二日経ったら完全に腐るよ」と。あなた最低限のことすらしてこなかったんだからそりゃ当然でしょう、と。そういった具合。

 ただ、怠惰な生菓子たちが反面教師になってくれた側面があるのも事実だ。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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