SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第12回「三十」

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更新日:2022/6/27

 もしもこの常温保存のエクレアやショートケーキやモンブランたちの言う通り、私も怠惰がゆえに劣化した生菓子になってしまったあかつきには「ほらな」なんて言われて嬉しそうに肩でも組まれかねない。そのまま仲良しこよしで体を揺すられ、「お前からも言ってやれよ」なんて脇腹を突いて促された挙句、結局は私も満更でもないしたり顔で「お前も二日で腐るからさ」なんてまだ美味しい状態でいる生菓子たちに言っちゃうような未来だけは、どうしても避けたいという思考を強固にしてくれたからだ。結果として、保冷剤を入れてみたり、箱からきちんと移し変えてみたり、ラップをかけてみたりの試行錯誤の上で三十代を迎えられたので、実感として二十代と変わったところは殆どない。「おかげさまで」と会釈程度に頭を下げてあげても良いのかもしれない。

 味は落ちるものだと、やがて痛むものだと、果ては腐るものだと、そんなことは誰もが知っている。虫が集り出した頃になって嘆くこと以外の選択肢がない未来なんて私は嫌なのだ。

 時の流れに任せるしかない部分があるということは承知の上、クリームを飛び散らせてジタバタして抗ってみたり、色が変わってきた果物にもやることはやったと誇りを持てるような日々を送っていたい。悔しいがこれだけやったからまア仕方あるまい、と自分を納得させられるようになっていたいのだ。

 ちなみにこの姿勢は、遊びに関しても同じことが言えるかもしれない。相対するもののように感じられるが、その時期にしか得ることの出来ない、時間、経済力、繋がり、立場、というものがあると思うので、少しでも肥やしになるのであれば多少の無理をしても全力で遊んだほうがいいというのが持論。

 さア、数年後に私は何を思っているのだろうか。

 ただどういうわけか四十代に突入した先輩には、「四十代は楽しい」と言っている人が多い。自分より下の世代にそう言える年の取り方は理想だ。素敵なので私も倣いたい。

 結果はもとより、自分で選択するということを大事に歳を重ねたいよね。平等に流れる時間ならば、何を選んでどんなふうに過ごすのかくらいは、意志のもと丁寧に決めたいとそんな風に思う。

 明日に迎えられるより、明日を迎える人間でありたいものだ。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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