地獄から抜け出すチャンスをもらった男の運命は?――芥川龍之介『蜘蛛の糸』

文芸・カルチャー

2018/6/14

『蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)』(芥川龍之介/新潮社)

 ある日、お釈迦さまは極楽の蓮池のほとりを散歩していた。はるか下には地獄がああり、犍陀多(かんだた)という男が血の池でもがいているのが見える。

 犍陀多は生前、殺人や放火など、多くの凶悪な罪を犯した大泥棒であった。しかしそんな彼でも一度だけ良いことをしていた。道ばたの小さな蜘蛛の命を思いやり、踏み殺さずに助けてやったのだ。

 そのことを思い出したお釈迦さまは彼を地獄から救い出してやろうと考え、地獄に向かって蜘蛛の糸を垂らした。

 血の池で溺れていた犍陀多が顔を上げると、一筋の銀色の糸がするすると垂れてきた。これで地獄から抜け出せると思った彼は、その蜘蛛の糸を掴んで一生懸命に上へ上へとのぼった。

 地獄と極楽との間にはとてつもない距離があるため、のぼることに疲れた犍陀多は糸の途中にぶらさがって休憩していた。しかし下を見ると、まっ暗な血の池から這い上がり蜘蛛の糸にしがみついた何百、何千という罪人が、行列になって近づいてくる。このままでは重みに耐えきれずに蜘蛛の糸が切れてしまうと考えた犍陀多は、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸はおれのものだぞ。下りろ。下りろ」と大声で叫んだ。

 すると突然、蜘蛛の糸は犍陀多がいる部分でぷつりと切れてしまい、彼は罪人たちといっしょに暗闇へと、まっさかさまに落ちていった。

 この一部始終を上から見ていたお釈迦さまは、悲しそうな顔をして蓮池を立ち去った。

文=K(稲)