溺愛する娘を目の前で焼かれた芸術家が取った驚きの行動――芥川龍之介「地獄変」

文芸・カルチャー

2018/10/1

『地獄変・偸盗 (新潮文庫)』(芥川龍之介/新潮社)

 平安時代の伝説的な画師、良秀(よしひで)の話。天下一の腕前として、彼は大殿様から気に入られていた。その一方で彼は猿のように醜い容姿の老人で、傲慢で変わった性格のため、人々からは気味悪がられていた。

 奇人のように扱われた良秀だが、彼の一人娘を溺愛していた。かわいらしく、やさしい娘は大殿様に気に入られたが、良秀は大殿様に娘を渡さずにいた。また娘本人も、大殿様の心を受け入れない様子だった。これにより父娘に対する大殿様の心象は少しずつ悪くなる。

 大殿様は良秀に「地獄変」の屏風絵を描くよう命じる。良秀は制作に取り掛かると、何かに取り憑かれた狂人のようになる。地獄絵図を正確に描くため、弟子を縛り上げて鳥に襲わせたり、夢の中でうなされたりして彼は自分の目で情景を把握し、絵の大半は完成する。

 そんな「自分が見たものしか描けない」良秀は、最後のパーツとして燃え上がる牛車と、その中で焼け死ぬ貴婦人の姿を描き加えたいが、その目で見ない限りどうしても描けないと大殿様に訴える。

 大殿様は、牛車に罪人の女房を閉じ込め、火を放ち、燃え果てていく様子を良秀に見せてくれることになる。しかし実際に牛車の中にいたのは、良秀の娘だった。彼ははじめ、とても悲痛な表情を浮かべた。車に火がかけられ、娘は身もだえながら焼けただれていく。

 しかしその後の良秀はというと、その様子を、恍惚の表情で厳かに眺めていた。父娘をこらしめようと謀った大殿様本人ですら、良秀の画師としての執念に圧倒され、青ざめていた。

 良秀は「地獄変」の屏風を完成させ、大殿様に献上する。絵の出来栄えは凄まじいもので、皆が称賛した。その次の夜、良秀は自ら首を吊って死んだ。

文=K(稲)