三島由紀夫『天人五衰 豊饒の海(四)』あらすじ紹介。3度にわたる親友の転生に翻弄され続けた男の末路とは

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/12

『豊饒の海 第四巻 天人五衰 (新潮文庫)』(三島由紀夫/新潮社)

『豊饒の海』は三島由紀夫生涯最後の長編大作。「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の全4巻で構成される、輪廻転生をテーマにした物語。禁断の恋、右翼思想、官能的美女、悪魔的少年を魂が巡る。本作の完結直後に三島は、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地に乗り込み割腹自殺。日本史に残る「三島事件」を起こした。

・「天人五衰」あらすじ

 76歳になった本多と久松慶子婦人は、天人伝説の伝わる静岡県の名勝・三保の松原を訪れ、そこで働く16歳の安永透という少年に出会う。彼の脇腹には3つのほくろがあったため、本多は彼が清顕・勲・ジン・ジャン(一~三巻参照)の生まれ変わりだと考え、養子にする。

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 本多は透に英才教育を施したが、彼は次第に悪魔的な行動を取るようになってしまう。婚約者を婚約破棄に陥れ、東大に入学してからは養父である本多を虐待するようになった。その心労により本多は覗き見をしてしまい、警察に捕まる。これを機に透は、本多家を乗っ取ろうと動き出す。

 これを見かねた久松慶子は透に対して、本多が彼を養子にした理由である3つのほくろと転生の話をし、さらには「あなたは偽物であり、陰気な相続人になるだけだ」と怒りをぶつける。傷つけられた透は、清顕の夢日記(一巻参照)を読み、それを焼いて服毒自殺を図る。透は一命を取り留めたものの失明してしまう。

 この事件で透の性格は一変した。彼は大学をやめ、点字を学んで穏やかに暮らすようになる。そして気の狂ったような絹江という女性と結婚し、彼女のなすがままにされるようになる。絹江は透の頭に花を飾り、その様子は天人五衰(仏教用語:天界で暮らす天人が、長寿の末に迎える死の兆候)のようだった。やがて、絹江は妊娠する。

 自分の死が近いと感じた本多は、60年ぶりに月修寺(一巻参照)へ向かい、聡子に会う。しかし彼女は、清顕という人は知らないと告げる。「何もないところへ来てしまった」と本多は感じた。

文=K(稲)