アラサーアラフォー落涙必至! 「懐メロ小説」の魅力

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

  JUN SKY WALKER(S)にTM NETWORK、プリンセス・プリンセス、ユニコーンなど、80~90年代に活躍したバンドの再結成が相次いでいる昨今。『ミュージックステーション』や『1番ソングSHOW』、12月でいよいよ終りを迎える『HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP』といった音楽番組でも、頻繁にその年代の音楽が特集されるなど、音楽シーンの衰退が叫ばれると同時に、音楽回顧主義が目立つようになってきた。その流れを象徴するかのように、文学界でも“懐かしの音楽”をモチーフにした小説が数々と発表されている。

advertisement

 たとえば、女子高の合唱コンクールと少女たちの心の機微を描いて話題を呼んだ『よろこびの歌』(宮下奈都/実業之日本社)は、ザ・ハイロウズの楽曲が物語全体を通底。11月17日に発売された待望の続編『終わらない歌』(宮下奈都/実業之日本社)でも、『人にやさしく』『リンダリンダ』『未来は僕等の手の中』といったザ・ブルーハーツの名曲たちが、20歳になった元・少女たちの心情と重なり合うように描かれている。もちろん、本のタイトルもザ・ブルーハーツのものだ。

 また、文化系アラサーがむせび泣くこと必至なのは、処女作にして“小説界のクエンティン・タランティーノ”と絶賛された樋口毅宏の『さらば雑司ヶ谷』(新潮社)だろう。というのも、本書には小沢健二をとうとうと論じるシーンが登場するのだ。まず、珠玉の1曲『さよならなんて云えないよ』について、タモリが実際に発言したとされる「俺、人生をあそこまで肯定できないもん」という賛辞を引用。そして「四半世紀、お昼の生放送の司会を務めて気が狂わない人間」であるタモリにそこまで言わしめたアーティストとしてオザケンを絶賛するのである。90年代の渋谷系カルチャーの洗礼を受けた人間には、きっと懐かしさでたまらなくなるはずだ。

 一方、風変わりなのは、第3回きらら文学賞を受賞した『青春ぱんだバンド』(瀧上 耕/小学館)。滋賀県の田舎町に住む高校生たちがバンドを結成する物語なのだが、演奏する楽曲に選ぶのが、J-POPのJを極めたミュージシャン・さだまさしのものなのだ。冴えない男子たちが『精霊流し』に『関白宣言』、『秋桜』といった渋すぎる歌にどんどん惹かれていくさまには童貞イズムが充満し、それが青春を呼び起こさせる。読後には、きっとさだまさしを聴きたくなるはずだ。

 ほかにも、聖飢魔IIを愛する主人公が登場する長嶋有の「センスなし」(『泣かない女はいない』所収)や、SUM41といった洋楽パンクに魅了された少女の物語『ミュージック・ブレス・ユー!!』(津村記久子/角川書店)など、ジャンルもさまざまに、懐かしい音楽が鳴り響く小説はたくさん。前出の『終わらない歌』では、主人公のひとりである玲が、ザ・ブルーハーツの歌に対し、「二十五年前の歌だというのに今も胸を打つ。時を経ても残るものは、夢か、希望か、恋か、友か。それとも、歌か。」と考えるシーンがある。色褪せない曲は、そのときどきの気持ちを照らし、代弁し、そして“あの頃”にタイムスリップさせる力があるもの。そう考えると、最近の音楽回顧ブームは、30代・40代の「あの頃はよかった」という思いの強さを表しているのかもしれない。