秀作が相次ぐマンガ業界の裏側を描いた作品たち

マンガ

更新日:2013/5/7

 ここ数年、マンガ家を主人公にした作品、いわゆる“マンガ家マンガ”の秀作が続く。そうした中、昨今のマンガ家マンガはより制作現場に迫っているのが特徴だ。

 例えば、中村珍の『アヴァール戦記』。表紙は一見、壮大なファンタジーものに見えるが騙されてはいけない。作画にかかる時間とアシスタント費用を比べて、コストパフォーマンスを追求する、など作者の赤裸々すぎるアヴァール(フランス語でケチの意)なマンガ家生活が綴られるのだ。

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 また、タアモの『アシさん』は、アシスタントに焦点を当てた作品だ。作者の可愛い画風と過酷なアシぶりとのギャップが笑いを誘う。マンガ業界にどっぷりすぎて、一般男子との会話が弾まないなど、「マンガ業界女子あるある」も描かれ、思わず筆者も共感してしまった。

 マンガ家マンガからは少し外れるが、松田奈緒子の『重版出来』も文句なしの快作だ。新人女性編集者・黒沢の成長を主軸に、ピークを過ぎたと言われるベテランマンガ家の苦悩、一冊でも多く売るために、書店回りに奔走する営業の姿などが描かれ、シビアな出版業界が垣間見える。だからこそ成功したときの「“売れた”んじゃない。俺たちが売ったんだよ!」という爽快な喜びも追体験できるのだ。

 具体的な作品を挙げていくと枚挙に暇がない。マンガ業界の裏側をのぞいていく度、一冊のマンガへの愛着も、ひしひしと増すことだろう。

文=倉持佳代子
(ダ・ヴィンチ6月号「出版ニュースクリップ」より)