切り刻まれたアインシュタインの脳 ―歴史に残る偉人たちの最期

社会

更新日:2014/4/7

 歴史に名を刻む偉人たち。自分もなにか偉業を成し遂げて、死後いつまでももてはやされたい…!などと思ったことがある人もいるのでは?

 もちろん、偉人たちの華やかな業績の陰には、計り知れない苦労もあったはず。そして、死ぬときですら、決して幸せな状況にあったわけではないようだ。『偉人は死ぬのも楽じゃない』(ジョージア・ブラッグ:著、梶山あゆみ:訳/河出書房新社)は、そんな血なまぐさいエピソードで満載だ。一般人であれば遭遇することがなかったであろう、有名税ともいえる最期。とくとご覧あれ。

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■アインシュタイン(物理学者)
 相対性理論を提唱し、“天才”の代名詞といっても過言ではないアインシュタイン。舌を思いきり出したひょうきんな表情の写真が有名だ。しかし、そこに映るアインシュタインの頭の中の脳みそは、その死後、研究熱心な医者たちによってバラバラに刻まれてしまう。

 1955年、アインシュタインが亡くなったとき、その死体を前にした解剖担当医、トマス・ハーヴィーは、脳を取り出して重さを計った。それは平均的な脳よりやや軽かった。予想に反した結果に納得がいかず、彼はその脳を元に戻さず盗み出す。

 盗み出したことが病院にバレて、ハーヴィーは解雇。なんとか近親者の許しを得た彼は、アインシュタインの脳を家に持ち帰る。しかし、調べ方がわからず、脳のスライス標本をほうぼうの脳研究者に一方的に送りつけた。それから40年たって、カナダの学者に調べてもらえることに。脳のかけら14個と無傷のときの写真を送ったところ、下頭頂小葉という視覚的・空間的な思考をつかさどる部分が通常より15%大きいことがわかったという。

 ハーヴィーは2007年に亡くなっているが、その前に残った脳をプリンストン病院の病理医に渡し、今もそこでホルマリン漬けになっているそうだ。もちろん死んだ後の話だから、どんなことをされようと本人が痛がることはない。しかし、興味本位に切り刻まれ、今も天に召されることなく暗い研究室に保管された脳のことを、本人はどう思うのだろうか。

■ベートーヴェン(音楽家)
 ベートーヴェンといえば、最近そのニセモノが話題になったが、本家は天才音楽家として小さい頃からいろいろな国王の前で演奏し、その確かな才能を証明していた。

 28歳のとき、最高度難聴者に認定され、40歳頃には全聾になってしまう。いつも不機嫌で、動作がぎこちなかったというベートーヴェン。胃腸の調子が悪くて、下痢や嘔吐に悩まされた。1827年には肺炎にかかり、さらに水腫になる。ベートーヴェンの体のあちこちが、腐りかけの液体でふくれあがった。

 病院にいくと、ベートーヴェンの腹に穴があけられ、そこに管が押し込まれ、膿のような粘液がカップ40杯分も抜き取られた。鎮痛剤などなかった時代、どれだけの激痛に耐えなければいけなかったのか、想像を絶する。次に主治医は、桶にお湯を張って、彼を中に入れてシーツを被せる。汗をかかせて液体を押し出そうとしたのだ。そして2~3時間後、液体は抜けるどころか、体は蒸気を吸い込んでさらに大きくふくらんでしまった。

 治療の甲斐なく、ベートーヴェンが亡くなると、人々が形見を手に入れようと、髪を少しずつ切り取って持ち去った。長髪だった髪の毛は、最後には一本もなくなったらしい。それから、解剖医たちの手によって、アインシュタイン同様に遺体は切り刻まれ、左右の側頭骨が取り出された。そして、その骨は行方不明に。墓に埋葬された彼は、人気がさらに高まるにつれ、遺体を掘り起こされてもっといい棺に移された。ついでに、専門家たちは頭蓋骨を調べ、写真を撮ったのだが、やはり写真のうち何枚かは消えてしまう。頭蓋骨の一部はどういった経緯かコレクターの手に。

 1994年、ベートーヴェンの遺髪のひと房がロンドンのオークションにかけられ、落札された。科学者がその髪を調べると、通常の100倍もの鉛が検出された。重度の鉛中毒だったことが明らかになった。彼の不調はこのためだったと考えられている。

 たらい回しにされる有名人の遺体…というより、切り刻まれた遺体のかけら。名声を得るのは嬉しいことだが、本人が何もいわないのをいいことに、好きなように扱われるのはたまったものではない。名声と苦労は表裏一体。名声が高まるほど、死んでも苦労が絶えないらしい。でもこんな苦労はしたくないなぁ。

文=佐藤来未(Office Ti+)