「不倫って言葉は存在しないの」―― やはりフランス人は異次元の存在なのか? 究極のフランス本を検証

海外

更新日:2015/5/14

 日本人は、「フランス人は〇〇」思想が大好きだ。「フランス人は洗顔しない」「フランス人はランチに2時間かける」「フランス人は10着しか服を持たない」という商品や本は必ずと言っていいほどヒットする。しかし一方で、(…ったって、フランス人じゃないしなぁ)とも思うのだ。「フランス人は洗顔しない」に至っては、理由が“気候”なので、無理がある。

 それでもフランス人に憧れる理由とはなんだろうか?『パリのマダムに生涯恋愛現役の秘訣を学ぶ』(岩本麻奈/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、フランス人の格言を元に、その“秘訣”を丁寧に、かつ「…なんだそれは!」とツッコミどころ満載に書かれている。いくつか紹介したい。

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「不倫って言葉、訳せないわ。だって、そもそも存在しないから」
――「へえ! やっぱりフランス人の恋愛は自由なんだな!」と思いきや、「それが理由で別れる夫婦もいっぱいいる」とのこと。日本では不倫は民法で禁止されているのに対し、フランスでは法的には問題ないのだそうだ。「法に抵触しない」というだけで、不倫の存在自体を無き物にしてしまう。さすがフランス人だ。

「フランスの男についてもっと知りたい? それなら、ぼくと付き合うといいよ。妻はいるけれど、何の問題もないから」
――問題は大いにある。フランス男にとっては問題ないのかもしれないが、そんな体当たりをしてまでフランス男について知りたいわけではない。「妻はいるけれど、何の問題もないから」発言だけで十分、フランス男について大まかな理解を得られるような気がする。

「なぜ、木陰で本を読むのかって? だって、セクシーに見えるでしょ? インテリ女は色気がないなんて、日本男性は不思議なことを言うのね」
――「インテリ女は色気がない」と日本男性が言っている、というのは初耳である。完全にステレオタイプである。木陰で本を読んでいる女性がセクシーかと言うと、それもどうなのだろう。読書というものは、好奇心や知識欲を満たすためのものであり、「セクシーに見せたい」という理由から木陰で本を読む、というのもなかなかに薄っぺらい発想だ。

「自分をあらゆるものから解放するのって、とても気持ちいいの。一度試したら戻れないわよ」
――自分を解放するのはさぞかし気持ちがいいであろう。これぞ日本人がフランス人から学ぶべきことである。ちなみにどう解放するかと言うと、ヌーディストビーチでスッポンポンになるのだ。スッポンポンになることによって自分を解放できるかもしれないし、気持ちよくなれるかもしれない。しかし、「一度試して戻れなくなってしまったら…」と考えると、いささか不安である。

 …と、本書を読み進めていくと、「フランス人は異次元の存在」であることがよく分かる。とはいえ、フランス本は役に立たないかというと、そうでもない。たとえばダイエットに失敗したとき。「好きなショコラを我慢するなんて、絶対にしない」というフランス人の言葉に慰められる。ふと老いを感じたとき、「女は自分で考えて決めた分だけ歳をとればいい」という言葉は、まるで聖書の一節のようだ。若い女にうつつを抜かす恋人や夫への苛立ちを抑えきれないとき、「日本の男性がロリコンなのは、自分に自信がないマザコンの証拠」という言葉にどれだけ救われることか。そう。普段は失笑を禁じ得ないフランス本だが、心が弱っているときには大いなるパワーをくれるのだ。

 フランス本を読んで、「アホくさい」と思うか、「聖書のようだ」と思うかどうかで、自分の心の状態を知ることができるのかもしれない。ちなみにわたしは本書を書店で手に取ったとき、一人で声を出して笑い転げたため、心の状態云々よりも、ただの気が触れた人に見えたに違いない。

文=尾崎ムギ子