夢はこころの防衛本能 生涯有病率90%の“悪夢障害”とは?

健康

公開日:2015/11/4

『悪夢障害』(西多昌規/幻冬舎)
『悪夢障害』(西多昌規/幻冬舎)

 誰でも寝ている時に夢を見ることがある。SFの世界に飛び込んでみたり、現実の記憶が呼び覚まされたりと内容は様々であるが、「悪夢が毎晩のように、しかも長く続くときは、メンタル不調が心配される」と伝えるのは、書籍『悪夢障害』(西多昌規/幻冬舎)である。

 夢の定義は研究者により異なるが、現在は「まどろみの中のおぼろげな映像も含めて、睡眠中のあらゆる段階で生じる精神活動」を夢とするのが主流であるという。覚えているかどうかの差で「ほとんどの人は夢を見ている」と語る著者だが、自身の患者にも「悪夢で苦しんでいる人は大勢いる」という。同書における代表的な悪夢の例は、以下のとおりだ。

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・悪事を働き、それが発覚する
・不審者に追いかけられる
・不条理なことで上司にこっぴどく叱られる
・高いところから突き落とされる

 悪夢は、不安や恐怖などの否定的な感情、怒りや嫌悪、危険を感じるエピソードも多く、ほとんどが意識のある時の体験にもとづくため、緻密で現実味を帯びている場合がほとんどだという。そして、毎晩のように悪夢が繰り返され、ひいては日常生活に支障ををきたすことこそが「悪夢障害」だと著者は指摘する。

 同書では、著者が和訳した国際的な悪夢障害の診断基準も記載されている。内容は以下のとおりである。

A.長くて極度に不快な夢を繰り返し見る。夢の内容をよく覚えており、生存や安全、身体の健全性を脅かすものである。
B.不快な夢から起きた後は、すみやかに覚醒し、時や場所、自分の身元など、現在の自分の状況を的確に把握している。
C.悪夢からの覚醒によって生じる夢体験、または睡眠障害によって、以下に示す臨床的に著しい苦痛、あるいは社会的・職業的、もしくは他の重要な領域における機能の障害が少なくとも1つは生じている。

1)気分障害(悪夢により不安や不快さが持続)
2)寝ることに対し抵抗がある(悪夢を見るのではないかという恐怖、不安)
3)認知障害(集中力・記憶力の低下)
4)介護者、または家族への負の影響(睡眠など)
5)行動の問題(ベッドを避ける、暗所恐怖)
6)日中の眠気
7)易疲労性(疲れやすくなる)
8)職業・教育機能の低下
9)対人・社会機能の低下

 同書によれば、悪夢障害による生涯有病率(一生のうちに個々人が何らかの病気へかかわる割合)は67~90%。自殺未遂者の66%が中程度あるいは重度の悪夢に悩まされていたという報告もあるため、数字を見ると、けっして「たかが夢」とあなどれるものではない。

 そもそも夢には「こころを守り、睡眠を延長させる効果がある」と著者は主張する。本来、夢は睡眠を必要とする身体を守る役割を持つが、悪夢は過度に働くこころの“防衛本能”でもあるという。

 そのため著者は、根本に抱く不安や悩みを解明する手段として「夢日記」をつけるようすすめている。夢の内容は現実と結びついているため、2~3行ほどでも書き留めておけば、ストレスの原因を明らかにできるからだ。ただ、悪夢にこだわり過ぎず、日常で「最近、悪い夢を見てばかりだな」とつぶやける程度に捉えておくのが健全だと主張する。

 ストレスが多いと言われ続ける現代社会において、せめて寝ている時くらいは安心したいものである。夢は「未だ完全に解き明かせていない領域」と著者はいうが、日常でわずかでも息苦しさをおぼえるなら、同書を手にとってみてほしい。

文=カネコシュウヘイ