あの『遠野物語』を本格絵本化!京極夏彦が手がける「子供向けらしからぬ」新“怖い絵本”『やまびと』と『まよいが』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

最近、“怖い絵本”がブームとなっている。

火付け役は2011年にスタートした岩崎書店の「怪談えほん」シリーズ

宮部みゆきら9人のベストセラー作家が参加したこのシリーズの刊行をきっかけに、大人も子どもも震えあがらせる怖い絵本に注目が集まり、雑誌やテレビで特集が組まれるようになった。

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中でも特にトラウマ級の作品として知られているのが京極夏彦の『いるの いないの』(岩崎書店)だ。テレビ朝日系『有吉&マツコの怒り新党』でも紹介されていたのでご覧になった方も多いだろう。

京極夏彦といえばミステリーや時代小説で人気を博していた作家だが、最近では「妖怪えほん」シリーズ(岩崎書店)全5巻を発表するなど、怖い絵本の書き手としても見逃せない存在となっているのだ。

その京極夏彦が、新たな絵本シリーズ「えほん遠野物語」(汐文社)をスタートさせた。

このシリーズは、日本民俗学の父・柳田國男が1910年に発表した『遠野物語』を、子どもたちにも分かりやすい言葉でリライトし、本格絵本化したもの。

全4巻刊行予定で、第1弾として『やまびと』『まよいが』の2作が4月28日に発売されている。

そもそも『遠野物語』とは、岩手県遠野地方に伝わる説話・信仰・行事を、柳田國男が書き留めた作品である。

そこには河童や天狗や雪女、ざしきわらし、神隠しなどにまつわる不思議なエピソードが数多く収められており、怪談・奇談の宝庫として読み継がれてきた。

死んだ老女が幽霊となって戻ってきた、という背筋のゾッとするような体験談を、文豪・三島由紀夫が絶賛しているのはよく知られた話である。

今回、シリーズ第1弾として刊行された『やまびと』は、遠野を囲む山々に棲むという「山人」の怖さを描いた作品だ。

山人とは背が高く、瞳の色がふつうとは異なる、おそろしい者たちで、遠野では毎年、大勢の娘や子どもがさらわれるという。おそろしい山人に遭遇した人々に待ち受ける運命とは?

この巻の絵を担当したのは、和風ポップな絵柄で人気の中川 学。ひたひたと迫ってくるような文章と、大胆な構図の絵とが相まって、山人の得体の知れない怖さを体感させてくれる。

もう一冊の『まよいが』は、白望山という山で起こる怪異と、ある貧しい女房の身に起こった不思議な出来事が描かれている。

小国村に住む三浦という女房が、川をさかのぼって歩いてゆくと、黒い門を構えた立派な館が建っていた。中に足を踏みいれた女房が、そこで目にした光景とは……。

『やまびと』に比べるとファンタスティックな展開ながら、人知を超えたものの気配を感じさせて、静かな怖さがある。

よく目を凝らすとあちこちに小さなお化けが隠れている、近藤薫美子の絵も魅力的だ。

豊かな自然とともに暮らしてきた遠野の人々の暮らしや価値観が、100年の時を超えて、わたしたちの心と響き合う「えほん遠野物語」シリーズ。そこにある怖さは、なぜか懐かしく、居心地のいいものだ。日本人の心の琴線に触れる怖さを、ぜひ味わってみていただきたい。

6月には『かっぱ』(絵は北原明日香)、冬には『ざしきわらし』(絵は町田尚子)が刊行される予定。どんなシリーズに育ってゆくのか、今後の展開も楽しみだ。

文=朝宮運河