大切なのは、しなやかな心―人間関係を良好にする「こころの技法」とは?

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公開日:2016/6/24


『人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」(光文社新書)』(田坂広志/光文社)

 仕事でもプライベートでも、人間関係は非常に重要な要素。だからこそ、少しでもギクシャクすると、大きなストレスになる。そして、上手くいかない人間関係を人生からすべて排除するというのは不可能に近い。それなら、少しでも良好な人間関係を築きたい。経験を積めば積むほど、人間関係の大切さを痛感するようになった。

 そこで、人間関係をストレスに感じることのある方にオススメしたいのが『人間を磨く 人間関係が好転する「こころの技法」(光文社新書)』(田坂広志/光文社)だ。

『人間を磨く』というタイトルを見た時、とてつもなく難しいことのように思えたが、「人間関係が好転する」というフレーズに興味を持ち、手に取ってみた。すると、実際には田坂氏の体験を基に、非常に分かりやすく「こころの技法」が解説されていた。

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 本書で提案されているこころの技法は全部で7つ。

第一の技法 心の中で自分の非を認める
第二の技法 自分から声をかけ、目を合わせる
第三の技法 心の中の「小さなエゴ」を見つめる
第四の技法 その相手を好きになろうと思う
第五の技法 言葉の怖さを知り、言葉の力を活かす
第六の技法 別れても心の関係を絶たない
第七の技法 その出会いの意味を深く考える

 それぞれの技法に対して、具体的なエピソードを紹介しながら解説がされている。どれもが、自分にも経験があり、ハッとさせられる内容。自身の体験・反省に基づく田坂氏のメッセージも、心に響くこと間違いなしだ。

 例えば、第一の技法の「心の中で自分の非を認める」。ここでは、「心の中」と「認める」というところがポイントだ。自分の悪いところを理解して直すことができれば理想的だが、それは非常に難しいと田坂氏は指摘。そこで、まずは非を認めることが重要というわけだ。

 田坂氏は学生時代、優等生であり、厳しい指導で有名な教授にも叱責されることなく、学びの期間を終えた。しかし、最後の挨拶の際、その教授から言われたのは「可愛げがない」という言葉だったそう。この言葉が胸に刺さり、その後の人生を大いに救ってくれるものとなった。「可愛げがない」という指摘が、当時の彼の優等生としての「密やかな奢り」や「無意識の傲慢さ」を表したものだと気づき、欠点のないことが必ずしも良いことではないと知ったのだ。

 ここで田坂氏は、人の「思い」というのが必ずしも言葉だけで伝わるものではないことにも言及。言葉で伝わるのは2割程度であり、心のなかで非を認めれば、それが周囲に伝わると説明している。さらに、会議などでの「こころの技法」として、すべての参加者に対して、心の中で「ありがとうございます」と唱えることにしているそうだ。自分の都合ばかりを考えて、周囲への感謝の気持ちを忘れてしまわないためにも、これはすぐにでも実践してみたい。

 第二の技法は、人と意見が衝突し、気まずくなってしまった時などに役立つもの。自分の意見を真っ向から否定されれば気分は悪いし、その相手と会っても顔を見たくないという気持ちになるかもしれない。しかし、そんな時でも、相手の状況や事情を察して、自分から声をかけて目を合わせることが大切だ。第一の技法で指摘された通り、言葉で伝わるのは2割程度。それなら、目を合わせるだけでも、相手に歩み寄ろうとする思いは伝わるかもしれない。そうすることで、相手の気持ちが和らぐこともあるはずだ。

 ここで具体的にご紹介できたのは2つの技法のみだが、他の技法についても非常に内容の濃い実践的なものとなっている。田坂氏によれば、根本にあるのは「しなやかな心」。これこそが、7つの技法を実践していくために不可欠な要素なのだ。

 本書で紹介された技法は特殊なことではなく、明日からでも実践できそうなものばかり。「心」に関することなので、簡単ではないかもしれないが、人間関係で悩んだ時にこの技法を思い出して実践すれば、良い結果につながりそうだ。人間関係を好転させたいすべての人に手に取っていただきたい一冊。

文=松澤友子