その靴、痛くない? もう失敗しない、自分にぴったりな靴を選ぶポイント

暮らし

公開日:2016/11/6

『その靴、痛くないですか?――あなたにぴったりな靴の見つけ方』(西村泰紀/飛鳥新社)

 私事になり恐縮だが、私の足に合う市販の靴は滅多にない。サイズは標準だが、足の幅(足囲、ワイズ)が狭すぎるのだ。かかとが小さいので、大半の靴はすぐに脱げてしまうか、足が前滑りして指が靴の先に入ってしまう。そんな状態で長年歩いていたのがよくなかったのだろう。とうとう小指が内側に折れ曲がり、内反小趾になってしまった。

 私は今、憤っている。靴屋に行っても買える靴がない。「足に優しい」を謳い文句にしている靴は、「ゆったりワイズの、幅広の靴だから履きやすい」ものばかり。どうやらワイズが狭い私のような人間は、靴屋や靴メーカーにとっては存在していないことになっているらしい。

 これを読んでいる人の中には「実際少数派なのでは?」とツッコミを入れたくなる人もいるだろう。いえいえ、そんなことは決してないのである。ちなみに私のワイズはC。本書『その靴、痛くないですか?――あなたにぴったりな靴の見つけ方』(西村泰紀/飛鳥新社)の統計を見る限り、若い女性の中ではマジョリティに属するはず。現代日本ではワイズの狭い人が増えているからだ。むしろE以上の幅広の人の方が少数派なのではないか。しかし、いまだに婦人向け靴売り場の主流ワイズはEやEEである。その結果、多くの女性は自分の本来の足よりも広いワイズの靴を履かざるを得ない。歩いているうちにかかとが脱げてしまうパンプスはその典型だ。足が靴の中で動くので靴擦れもできるし、痛くて長時間歩けない。さらに足に負担もかかるため、開帳足や外反母趾、内反小趾といった足のトラブルの原因にもなる。

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 本書の著者は、この「日本の靴メーカーは、そもそもみんなの足に合う靴を作っていない…かも」という衝撃の事実を明かし、この状況に対して一貫して警鐘を鳴らしてきたシューフィッターだ。彼の経営する「シューフィット・神戸屋」は靴の中敷き調整を専門に手がける「靴を売らない靴屋」で、2010年に新宿で開店して以来、多くの女性を靴や足の悩みから解放してきた。神戸屋では利用者の足の測定やその測定結果に基づく靴の微調整のほか、今後の靴選びのアドバイスなども行なう。実際に訪れた利用者の「今まで靴の選び方を間違えていたことがわかった」とか、「痛くて履けなかった靴が中敷き調整で再び履けるようになった」という声は後を絶たない。

 ワイズを含む自分の足の形を知り、それにぴったり合った靴を履くようにすれば、足の状態は劇的に変わる。崩れていた足の形が元に戻り、足のトラブルも改善に向かう。何よりヒールで長時間歩いていても痛くならないので、毎日のお出かけが楽しくなる。足に合った靴には、人生を素敵なものに変えてくれる力があるのだ。そのためにも必要なのは、足と靴に関する正しい知識、そして困ったときに的確なアドバイスをくれるシューフィッターである。

 ただ残念なことに、足のサイズの正確な測定や靴の細かい調整を行なってくれるような、腕のいいシューフィッターのいる店は少ない。特に地方在住者にとって、普段の行動範囲内にそのような店を探すのはほぼ不可能といっていいだろう。だからこそ本書の持つ意義は大きい。本書はいわば、凄腕のシューフィッターが自分の手の内を明かした本だ。足の正しい測り方や、足に合った靴を見るポイント、足のトラブル対策、さらに市販のインソールを使って靴を調整する方法まで、きちんと紹介してある。

 たとえばパンプスを買うとき、著者は「試着の際はつま先立ちをしてみて」とアドバイスをする。もしここでかかとが脱げたり、靴にシワができてしまったりするようなら、その靴は自分の足に合っていない。靴屋の店員は「中敷きで調整できる」と言うかもしれないが、著者曰く「ここまで合わない靴を、実際に調整するのはプロでも難しい」らしい。よって「買わないのが正解」だそうだ。

 もし今、あなたが靴の選び方に迷いを感じているのなら、とりあえず本書の一読を勧めたい。靴メーカーや靴屋、ファッション誌がこれまで教えてくれなかった、靴と足の真実をこの本は惜しげもなく教えてくれる。まずは著者の言う通りのやり方で、自分の足を測ってみよう。きっと驚きの結果が待っているはずだ。

文=遠野莉子