文芸・カルチャー

森高千里も吉高由里子も作品に登場していた!詩人・銀色夏生の旅行記「つれづれノート」第30弾!


『海外旅行熱、急上昇して急降下 つれづれノート(30)』(銀色夏生/KADOKAWA)

 ユニークな旅行記を連想させるようなタイトル。詩人の「旅行熱」とはどんなものかとページをめくると、旅行そのものよりも日常の感覚の中で、自然や人と対峙してきた著者の素顔が見えてくる。『海外旅行熱、急上昇して急降下 つれづれノート(30)』(銀色夏生/KADOKAWA)は、自由の体現者である著者がベトナム、スリランカ、インドなど半年で6回の海外旅行を通して、自分にあった旅の仕方、日々の暮らし、心情などを時に客観視しながら描いた徒然日記である。

 銀色夏生は1980年代、作詞家としてデビュー。大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」をはじめ、森高千里、松田聖子、小泉今日子など多くのアーティストにその作品を提供してきた。また、詩集『バイバイまたね』は女優・吉高由里子の小学生時代の写真を掲載していることでも知られている。詩、エッセイ、随筆など著書は多数。1991年にスタートした「つれづれノート」シリーズは、その時々で感じた伸びやかな心象風景が切り取られたような写真と記録。書きはじめて25年、本書で30作目になる。

 旅への欲求は突然やってきた。今まで行けなかった旅。今年を「旅行元年」と決めた著者は、世界中の行きたいところへ毎月行こうと決意する。ツアーもあれば、家族旅行も、一人旅もある。旅の心は自分を自由に解き放す心。1月最初のベトナム旅行では、世界遺産ホイアンを見た後、静かに暮れゆく水面を見て、

手こぎボート、ゆられながら、進みながら、私の人生はこれから旅の時期が始まるんだと思った。私の旅の幕が開く。

 と綴っている。

 一人を好む著者が、なぜか2月はニュージーランドのスピリチュアル系マニアックツアーに。ワイタハ族のセレモニーやら移動やら常に集団生活。集会所でみんな一緒に雑魚寝、ディープな体験が修業となった貴重な旅。しかし緊張の連続で自分には不向きだと気づく。そしてやっぱり秘境だ! と3月はスリランカの仏教美術をめぐる旅へ。なぜか興味もないのを選んでしまったことに「好奇心の置き土産」として挑むことになる。象の孤児院、寺院めぐり、アユールベーダ、現地へ行ってからのお楽しみはゆっくりじっくり味わう。

 いっきに3つの旅を終えて、振り返ると次なる目標が見えてきた。これからは好きな国、好きなテーマの旅に挑もう。自由のために健康であること、そのためには体を鍛えなくちゃいけない。そういう著者はこの「旅行熱」が始まるずっと前から、日々の運動習慣を大切にしてきた。ヨガや水中ウォーキング、ボクシングやストレッチ、筋肉が固まったり、縮んだりしないよう熱心に通うストイックさは、今までの詩人、銀色夏生のイメージからはほど遠い。抽象的でアンニュイな言葉の世界で生きる彼女は、これから体の外の世界と内側の世界、両方を探求していきたいという。どういう心境の変化なのかは謎である。

 4月、家族と行く2度目のベトナムは、ツアーではない自由な旅。写真はその国に流れる空気を捉える一瞬だ。リラックスした親子旅は土地勘のある場所でのんびりと過ごす。同月末、インドツアーでアンズの里へ。桃源郷を目指して行くが氷点下の高地。さらにアンズは終わってポプラの青々した葉が…ところが雄大な景色や美しい山里、チベット文化圏の様子、旅は違う贈り物をくれるらしい。6月はイタリアンアルプスへ。可憐な花々、緑の丘、ちょっとハードなハイキング、旅先の大自然の中に静かに溶け込む(瞑想する)ことが自己鍛錬という。

 表紙の写真は海を前に、著者が曇り空を見上げている広々とした景色。俳人、尾崎放哉の句、「咳をしても一人」を準(なぞら)えたのか、本書の赤い帯には「旅をしても、ひとり」という一行があった。「旅行元年」の今年から旅を始めたら、考えが変化して来たという著者の言葉。

自分のために生きる。自分の好きなことをする。何もない広い空間の中にいる。恐怖心のない自由さがそこにある。

 これからどこへ向うのか…生きることは壮大な心の旅。「自由」と「ひとり」あらためて銀色夏生の詩集を開いてみたくなった。

文=藤本雪奈



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