文芸・カルチャー

母から渡された「諭吉おじさん」が、小学生だった僕の人生を大きく変えていく――。ネット話題作が書籍化!『僕の諭吉おじさん』


『僕の諭吉おじさん』(見鳥望/主婦の友社)

『僕の諭吉おじさん』(見鳥望/主婦の友社)は、小説投稿サイト「小説家になろう」で発表された同名の作品を大幅に加筆修正し、書籍化となった著者のデビュー作。異例の大ヒットを記録した『君の膵臓をたべたい』に続くネット発の注目作だ。

「これあげるわ。好きなもの買っていいわよ」

 小学2年生の陽太は、ある日突然、母親から一枚の紙切れを渡された。それは小学生の僕には縁のない「諭吉おじさん」だった。誕生日でもクリスマスでもないのに、なぜ自分に大金が渡されるのか。戸惑う僕に、母は告げる。「今日中に使うのよ」と。
 不思議に思いながらも、陽太は喜んでおもちゃ屋さんへ駆け込む。

 母から渡されたこの「諭吉おじさん」が、「僕」の人生を狂わすことになるとも知らないで――。


 悩んだ挙句、陽太はその「諭吉おじさん」を母親に渡す。大切なお金は、母親が使った方が、一番価値があるのではないかと、いじらしくも子どもながらに考えた結果だった。しかし「諭吉おじさん」を返された母親の表情は、あまり芳しくない……。
 後日、母親が逮捕される。母子家庭で、決して裕福ではなかったが幸せに暮らしていた陽太。しかし、その日常は「諭吉おじさん」から……母親の犯した罪から、もろくも崩れ去ってしまう。

 本作の主人公は、一人ではないように思える。それは「諭吉おじさん」を発端として「日常」が崩壊してしまったのは、なにも陽太だけではないからだ。
 もちろん、陽太が一番の登場人物であることに間違いはない。しかし、本作は章ごとに視点が変わる。陽太の母、祖父、友人、陽太に恋心を抱く女性が登場し、その章で語り出す時、主役は「その人」になるのだ。
 だから本作は、陽太と母親、そしてその家族。友人、恋人といった「陽太に関係するキャラクターたち」全員が、悩み、傷つき、罪の意識にさいなまれながらも、過去を乗り越え「幸せな日常」を取り戻すまでの感動の物語と言えるだろう。
 この多くの視点から「諭吉おじさん」をめぐり、語られる人々の葛藤は、ライト文芸の域を越え、読者に感銘を与える。元ネット小説と侮るなかれ。その筆力や感情表現の濃密さは、他のライト文芸作品から群を抜いていると思う。

「お金があれば幸せなのか?」――その問いに、私は今ならハッキリと「NO」が言える。
「あるに越したことはないでしょ」「あった方が幸せ!」と感じる読者の価値観を、本作は180度変化させてくれるだろう。

文=雨野裾



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