司法書士作家語る「“終活”は老人限定のものではない」

社会

更新日:2012/6/26

 人生の最終章をいかに送るべきか。葬儀や墓の準備、相続を含めた遺書の作成など、残された余生のプランニングを積極的に進める人が増えている。数年前から、こうした動きは“終活”と呼ばれ注目を集めるようになった。

 安田依央さんの新作『終活ファッションショー』(集英社)は、タイトルにあるとおり、この終活をテーマにした物語だ。物語の中心人物である市絵と同じく、安田さんは司法書士としての活動も行っており、終活ファッションショーを実際に企画運営したことがあるそうだ。

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 「司法書士という仕事をしていれば、遺言書の作成や相続など、人の死に関わる機会が少なくありません。やっていればわかりますが、普通の人は自分の死についてほとんど考えることがないんですよ。たとえば、どんな葬式をしてほしいのか、どんなお墓に入りたいのかといった意思表示すらしていないのが現状。遺言書に希望を書いたとしても、それを開けるのは葬儀が滞りなく終わったあとですから意味がないんです。以前から感じていたこのモヤモヤした気持ちを何とか解消できないものかと考えた末に私が出した答えが、終活ファッションショーでした」

 安田さんが企画した終活ファッションショーは順調そのもので、この点は本作と大きく違うところである。
 『終活ファッションショー』に登場するのは、熟年離婚を突きつけられて右往左往する元企業戦士、生きる気力をなくした少女、余命宣告をされた若い母親、ことあるごとに悪態をつき周囲から煙たがられている初老の女性…。作中のショーも現実のそれも、ファッションショーと名付けられているが、衣装を見せることだけが本来の目的ではない。終活ファッションショーは、自分の死に様を含めた余生の決意を家族や友人に表面する場なのだ。

 「キリスト教文化圏のメメント・モリ(死を忘れるな)のような概念が根付いていない日本の社会では、自らの死でさえも隠しておくべきものとして遠ざけてしまう傾向があります。でも、実際には自分の死なんて特殊でも何でもなく誰にでもあるものなんですよね。死生観という言葉があるとおり、自分の死を深く考えることで、余生の過ごし方を見出したり、何をなすべきかを意識することは大事なことではないでしょうか。ということは、終活は老いた人たちに限定されるものではないのです」

 登場人物たちは宗教的観念とは違った角度で死と生に直面し答えを出していく。
 「答えなんてすぐに出せるわけがない。ひとつでいいから、これだけは譲れないというものを探すだけでいいんですよ」(安田さん)

取材・文=田中 裕
(ダ・ヴィンチ7月号「『終活ファッションショー』 安田依央」より)