ワンデイトリップのような軽い脱・日常感が味わえる1冊

小説・エッセイ

公開日:2013/1/6

片桐酒店の副業

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:徳永圭 価格:1,382円

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小説というのはタイトルと装丁で購入意欲が相当に左右されるものだと思います。電子書籍は手に取れない分、たったひとつの画像とタイトルで印象が一瞬にして決まる、なかなか酷な世界。立ち読みができるとはいえ、本の厚みもなければさらっと開いたときの文字の詰まり具合すら自由に変化してしまうから、小説を選びにくいと常々思っているのですが、この装丁とタイトルには「みっけもん」感を大いに感じたのでした。

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酒屋のビンから自分の日常に近い感覚で、親近感が湧いてきます。設定はまさしくどこにでもある風景。麻雀ですり、月末までサバイバル生活を強いられた大学生の丸山拓也。通りがかりの酒屋の求人広告に迷わず足を踏み入れますが、そこから彼の日常がちょっぴりミステリアスな様相を帯びてきます。その丸山のスタート地点にも、なんだか感情移入してしまいます。

片桐酒店が副業で配達するのは、普通の宅配便では依頼のできないようなワケありの品々。「人気絶頂のアイドルに届けたい手作りケーキ」、「子供がなけなしの小銭で依頼する精神病院に届ける工作の宇宙船」、「OLの上司に対する“悪意”」など。その送り主の生活と、送りたいものをめぐり、拓也と店主の片桐は依頼主たちの人生に少しだけ足を踏み込むことになり、普通の酒屋の普通の配達のはずが、大きな意味が生じてきます。平凡な風景の中に厚みが出てくるその様子に好感をおぼえます。読みやすく、読後は、ワンデイトリップのような軽い脱日常感を味わえ、心が少し軽くなる、そんな1冊です。


片桐酒店の副業は、実は本業よりもおもしろい

嫌いな上司に「悪意」を送りたいOL。いったいどうやって?

子供の荷物も引き受けます