ヘビーな家族劇。歪んだ愛のもとで育つ子供たちは….

小説・エッセイ

公開日:2013/4/2

三浦綾子 電子全集 水なき雲

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:三浦綾子 価格:540円

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三浦氏の描く家族像はいつでもはっきりとしたキャラクターとその役割がまかされていて、字を追いながらもテレビドラマを見るよう。物語を間近に感じるのも、家族の細かな会話や挿話に溢れ、現実感が否が応でも盛り上がるから。

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この1冊の舞台は北海道。亜由子は夫・和朗の浮気にほとほとくたびれている。姉の佐貴子はとっくのとうに夫には愛想を尽かし、夫は金を持ってくるだけの道具に過ぎないように考えている。その代わり息子に愛情をどっぷり降り注ぎ、長男の俊麿の東大受験に自らのエゴイズムを実現させようとしている―。

そしてその末の母子相姦。あまりにヘビーで、あまりに悲しい物語を作者は男性はだしの揺るぎない筆致で綴ってゆきます。表面上は体裁を保っている夫婦が営む家庭には、どんな弊害があるのか? 歪んだ愛の姿しか見ていない子供たちはどんな風に成長できるのか? そんなことを全編通じて問われているようで、ひたすら、つらい。

そしてそんな家族と間近にいながら、佐貴子の支配する「山鼻のうち」になんとなく反感を持って育つ亜由子の息子たち。親の言うとおりに育ってゆくしかなかった俊麿と、夫婦の不仲にいながらも客観性を保てた純一と真二。そのコントラストも素晴らしい。ちりばめられる姉と妹の間のライバル意識もどこの家庭にもつきものな状況で、ますます感情移入しやすい感が。

三浦氏の作品はこれが初めてではありませんが、相当にどぎついテーマを選んだ点で特出していると思います。愛が、家族の絆が歪み始めるとどうなるのかをリアルに描いた作品。クライマックスは想像し得たようで、それでも衝撃的。悲しみに拍車がかかります。物語としての重厚感にあっぱれ!とはいえ、題材が相当ヘビーなので、心が強いときのチャレンジをお薦めします。


のっけからのこの佐貴子の言葉。怖いです

こうした姉妹の小さな会話もリアル感たっぷり

歪んだ愛の環境のなかで苦悩する純一