恋とは、セルフリスペクトとは…答えのひとつがここに

小説・エッセイ

公開日:2013/4/18

ヴァイブレータ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:赤坂真理 価格:420円

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ジャーナリストである主人公・早川玲がコンビニの酒コーナーをうろついているところからこの作品は始まる。彼女の思考の流れがずっと追われるのだが、それは気の毒なほどけたたましく落ち着きがない。脳内の声はずっと彼女に語りかけ、ときに嘲り罵りつづける。声を聞きたくないために玲は不眠症になり、眠るためにアル中になり、さらには食べ吐きを繰り返すようになった。結果として肌も荒れ、美しさを保つことが困難になっていく。

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最初はどちらもコントロールできると思っていたのにアルコールからも食べ吐きからも抜け出せずにいる。飲みたいという声と飲ませたくないという声、雑誌から溢れる情報の洪水、くだらない座談会に出席してしまったことへの悔恨。声から逃れるようにとりあえずレジに向かった彼女はある男を見かける。

「あれ、食べたい。」聞こえてくる声は、玲の意思。玲は男を目で誘う。男は彼女の手の甲をするっと擦って、外に出ていく。玲は、進行していた企画の取材相手からの待ち望んでいた電話に出ることもせず、彼について行ってしまう。男はフリーのトラック運転手だった。恋情と情事、暴走族上がりの男の話、トラッカー同士の無線の会話…三郷、赤城山、月夜野とトラックは驀進していく。男は限りなく優しいが、自分のなかに他者を受け容れるラインを予め決めている。

しかし刹那的にでも優しさにふれることで、彼女は自分自身を少しずつ取り戻していく…。表面的には行きずりの恋を描く恋愛小説のようでいて、じつはこれはディスコミュニケーションの絶望と、本能的なコミュニケーションがどれほど渇望されているかを描く文学作品だ。だから98年の文芸誌への発表当時から多くの読者に支持されているのだ。


つまりトラッカーとしての男と知り合った彼女は、トラックに乗っていない男にはコンタクトが取れない。関係は刹那的なものだ

車にぼうっと乗っているときの主人公の止めどもない思考、言語化しがたい感覚までも著者は緻密に文章化する。それがいっそう主人公への共感を深める