『舟を編む』で記憶に新しい「辞書編纂」の仕事がもっとわかる!

更新日:2013/6/25

辞書を編む

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 光文社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:BookLive!
著者名:飯間浩明 価格:778円

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早稲田大学で教鞭も執る著者は「日本語学」の専門家。『三省堂国語辞典』の編纂に加わって久しい人物です。辞書編纂というこの作業、この方が書き残さなければ、このまま誰もどんな仕事なのかを知らないままに終わってしまったのかもしれないと想像すると、著者は偉業を果たしたといえます。

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「言葉」、私も大好きです。面白い表現や新しい日本語など、ことに海外在住者は敏感にならざるをえません。日常で接する日本語が少ない分だけ、時々帰国して「言葉が変わった」と思うこともままあります。著者はその生きて変遷してゆく言葉を日々拾い集めています。会話から、テレビから、雑誌から。街の看板や、お店のタグまで。すべてが対象。珍しい表現、これから使われるかもしれない新しい言い回し。娘とアニメを見ていても、妻と出かける話をしていても、すべてが著者のアンテナにかかって、そのいくつもが分類と資料用例としてアーカイブの貴重な資料となってゆきます。本当にその作業には頭が下がる思い。

日々言葉にアンテナを張って暮らしてゆくのは素人の私たちにとって大変な作業のように見えますが、著者の楽しそうなこと! 読んでいて、こちらもわくわくしてきます。たわいのない流行語、忘れさられそうな古語、砂丘の砂のひとつひとつに意味を見いだし、拾ってゆくような作業は、まさに「愛」だと思いました。

例えば、「カピバラ」がどんな動物か調べて用例を集めてみても「草食性で、泳ぎがうまくて、肉がおいしい動物」と言ってもわからないと、その説明に相応しい語釈を探して、著者は動物園へも向かうのです。そして「カピバラ(名)[capybara]〔動〕ネズミのなかまで、大型犬ほどのおおきさのけもの。毛におおあわれ、ねむそうな目と、間のびした鼻の下をもつ。」とする。そのセンスのなんと詩的なことよ! こうしてひとつの言葉に多大な労力と、そして編集委員が持ち寄る用例と経験と知識と日本語センスによって辞書が編纂されてゆく。感動です。辞書は言葉をひく書物ではなく、言葉を愛する人々の愛の結晶なのだと痛感し深く心打たれました。すべての人に、強くお勧めします!


辞書をどういった視点から編纂するか、という大前提も大変な問題

これはフェミニストたちが黙っていなさそうな表現

これはフェミニストたちが黙っていなさそうな表現
(C)飯間浩明/光文社