一に骨、二にも骨、三、四も骨で、五にも骨。骨から読み解くミステリー

小説・エッセイ

公開日:2014/1/23

櫻子さんの足下には死体が埋まっている

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BOOK☆WALKER
著者名:太田紫織 価格:567円

※最新の価格はストアでご確認ください。

本作『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』は小説投稿サイトのE★エブリスタにて投稿された作品です。その投稿先では「E★エブリスタ 電子書籍大賞ミステリー部門(角川書店)優秀賞」「怪盗ロワイヤル小説大賞 優秀賞」「E★エブリスタ×『カルテット』小説コンテスト 大賞」を受賞するなど各所で高い評価を受けています。また作品舞台である北海道旭川市には本作が刊行されるより前に実際に住んでおり、作中の旭川愛あふれる細々とした描写も魅力のひとつ。特に第三骨(3章)の冒頭部分は、空腹時には読んではいけません。ザンギ(鳥の唐揚げ)が食べたくなることでしょう。

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本作の魅力はなんといってもホームズ役の九条櫻子(くじょうさくらこ)さんのキャラクターです。大金持ちの美人のお嬢様であるのですが、なんといってもとんでもない骨好き。趣味は生物の骨格標本を作ることで、道路脇に狸の轢死体があれば大喜びで家にお持ち帰り。死体を寸胴鍋でぐらぐら煮込んで取り出した骨を組み立てることを至上の喜びとしてしまう人なのです。

ちなみに真夏に鹿の死体を車に乗せて1台車をダメにしており、「タクシーだと動物の死体の臭いで断られて骨拾いができないから」という理由で新車を用意するというのだから、そのお金持ち具合も、骨への愛も、まさしく一等級の本物です。また骨が大好きなのでそれに至る過程としての死体も愛している櫻子さんは、生きている人間に対してはなかなかに辛辣で無関心。このあたり、櫻子さんの人格形成に過去になにかがあったのでは…と匂わされていますが、真実はまだ闇の中。続刊にて明らかにされる時を座して待つべし!

そして、そんな櫻子さんのキャラクターを際立たせる語り部の館脇正太郎(たてわきしょうたろう)は、平凡な高校生。また自分に正直で気侭な櫻子さんは会話をするだけで周囲と軋轢を生んでしまい、彼のとりなしが地味に必要なためとても良いコンビとなっています。そして櫻子さん曰く正太郎は「骨に愛されている」らしく、海に行った時にはアザラシの骨を見つけたばかりか人間の骨まで見つけてしまう「強運」の持ち主。彼本人は死体とは無縁の人生を送りたいようですが、「死を引き寄せる」櫻子さんとつるんでいる限りはそのささやかな望みは叶いそうにもありません(笑)


櫻子さんの傍若無人は通常運転。そんな彼女と交友を結べる正太郎はほんとうにできた高校生です

『真実っていうのは骨に似ている。皮膚と脂肪と骨の中に隠されていても、ちゃあんとその奥で、全部を支えているんだ。物事にはどんな時もちゃんと理由と関連があるんだよ。生き物の身体に骨と筋肉があるようにね』桜子さんが唯一尊敬している叔父さんの言葉が面白い

続刊では森に行くことになるのですが…さて、そこで何を見つけるのかは実際読んでのお楽しみ(笑)