死を隠蔽する社会とは

更新日:2015/9/29

デス・スウィーパー 1巻

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : KADOKAWA / 角川書店
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:きたがわ翔 価格:626円

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本作は、「死」と「社会」について強烈な問題提起をしています。兄の自殺のサインを受け取れず、失ってしまった主人公が社会に対して気づき、戦慄を覚えたこと。「何かが隠蔽されている」。それは、人の死…つまり自殺、孤独死、殺人ほかによって命が失われた肉体が、どのように朽ちていくのか。社会で厳重に封印されたそれを覗いた者は、命に対する価値観、倫理観が変化する。

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本作によると、日本の年間自殺者は約3万人。毎日、日本のどこかで約90人が自ら命を断っているという現実。イマドキのテキトーだらりんとした青春まっただ中の主人公・裕行は、ある日の部活終わりで、一人暮らしをする兄の部屋を訪ねます。母からの生活費を渡すために。

しかし、兄は無表情で「家賃だけでいい。生活費はいらない」。そして、ごく自然に「実は…そろそろ死のうと思うんだ」とつぶやきます。毎日をどうにも“リアル”に感じられない裕行は、その言葉を冗談半分に捉え、次に兄の部屋を訪れたとき、腐乱死体と対面することに。

兄が1日当たりの自殺者90人の1人に入ったという“リアル”を実感できない間にやってきたのは、「デス・スウィーパー」…つまり、清掃・遺品整理会社のスタッフ。異臭とハエがあふれる部屋を見積もりのために見分し、効率的に“後処理”をしていく。これまでの人生で目の当たりにしたことがない景色に、裕行は自分の中で何かが突き動かされる感覚を覚え、この清掃会社にアルバイトの面接を申し込みます。

高齢者の死が子どもに命の尊さを教える、などいわれますが、超長寿化によりいい歳をしても身内の死を経験したことがない、という人が増えているという見方もあります。当然、自殺、孤独死、殺人などで傷んだ死体を自分で目で見る機会など、さらにありません。しかし、実際にはハエがたかる腐敗死体、髪や皮膚などの固形物を浮かべ血液や脂肪でドロドロになった風呂に浸かる死体、そして死体と共にある“現場”は必ず存在し、さらにこれらを“元どおり”に清掃する人間がいて、主人公いわく「社会で死が隠蔽されていること」に、私たちはあまりに鈍感なのかもしれません。

若き清掃員の玲児は、裕行に対して「装飾品の方が人の命よりずっと長く残る。これが真実」と言い放ちます。アルバイトに入った頃は仕事の後に焼き肉が食べられなかった主人公が、本作の最後では自分から玲児を食べに誘うシーンが印象的。裕行を追いながら、今一度、「死」と「死を隠蔽する社会」について考えてみてはどうでしょうか。


兄の部屋を開けると猛烈な異臭が一気に襲ってくる。先にあったのは…

黙々と“後処理”を進める清掃員・玲児は、裕行にとってあまりにも非日常的な存在だったが…

社会の隠蔽に気づき、戦慄する

隠蔽される前の“死の現場”を目の当たりにする。描写が非常にリアル
(C)きたがわ翔/KADOKAWA 角川書店