誰もが“かけがえのない存在”だと教えてくれる。童謡「ぞうさん」などで知られる詩人、まど・みちおの絵本『ぼくが ここに』【書評】
公開日:2025/5/3

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2025年2月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!
ぼくがここにいるとき。ほかのどんなものも、ここにいることはできない……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『ぼくは ここに』。没後10年を記念して刊行が続く「まど・みちおの絵本」シリーズの一冊であるこの絵本、どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
かけがえのない存在として。『ぼくが ここに』
ぼくがここにいるとき…

ぼくがここに
作:まど・みちお
絵:きたむら さとし
出版社: 理論社
みどころ
ぼくがここにいるとき。
雑踏の中で歩きながら、ぼくは考える。ぼくが「ここにいる」ならば、ほかのどんなものだって「ここにいる」ことはできない。もしここに見あげるほどの大きなゾウがいるならば、そのゾウだけ。手の平に乗るほどの小さなマメがいるなら、そのマメだけしかそこにいることはできない。
地上に生きる草花や虫たちも、親子寄りそって暮らす動物たちも、水の中で自由に泳ぎまわる生きものたちも。この地球の上では守られている。
そこに「いる」だけで、そこに「ある」だけで。
ああ、それがどれだけ素晴らしいことなのか……。

もしここにいるならば、その一頭のゾウだけ、その一粒のマメだけしか、ここにいることはできない。

ああ、この地球の上では……

誰もが、こんなに大事に守られているのだ。
詩人まど・みちおさんの代表作の一つであるこの詩に向き合い、絵本として表現、完成させたのは絵本作家きたむらさとしさん。まるで「大きな謎解きのようだった」と語るその物語の始まりは、存在が消えてしまいそうなほど風景に溶けこみながら歩く「ぼく」の姿から。そこからやがて「だれか」に出会い、かけがえのない「みんな」と一緒に地球に存在し、さらに宇宙へとスケールを大きくしていく。
その深く美しい画面を眺めながら、ここにいる自分も、そこにある何かも、存在する全てのものが大切であり、いていいのだという安心感に包まれていくのです。
没後10年を記念して刊行が続く「まど・みちおの絵本」シリーズ。生きる喜びを伝えてくれるどの作品からも、しばらく目を離すことができません。
編集長のおすすめポイントは……
そこに「いること」こそが素晴らしい。
まどさんの詩の中には難しい言葉は出てきません。誰もが理解できるような、日常の中の「あたりまえのこと」を語ってくれます。けれど私たちは、この「あたりまえのこと」に驚き、心を動かされてしまうのです。絵本を通して読んでみれば、さらにその果てしないスケールの大きさとふところの深さを味わい、体験することができるのです。「宇宙が、静かにみんなを守ってくれている……。」そんな風に思える瞬間があれば、この先もきっと自分らしく歩いていけると思えるのです。