【制作の裏側】真っ暗な洞窟を描くための画材とは? ここにしかない音を探しに、真っ暗闇の洞窟へ『おとのどうくつへ』

文芸・カルチャー

公開日:2026/8/28

 洞窟の穴から外をのぞいているような表紙が印象的な絵本『おとの どうくつへ』。

 洞窟はひんやりとしていて、洞窟の中の音だけが響き、そして真っ暗で……日々忙しない毎日を過ごすわたしたちにとっては、遠いとおい非日常的なところ。

 そんな洞窟の世界を、この絵本ではどのように描いているでしょうか。絵本制作の裏側を少しだけご紹介します。

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ほんとうの真っ暗闇がある洞窟で、ここにしかない音を探しに

「あれ! だれか きた」 洞窟へ、めずらしくお客さんがやってきました。大荷物を持っています。

「ありゃりゃ、かえったほうが いいよ?」「だって なーんにも みえないでしょ?」

 そう洞窟が語りかけますが、ライトをパッとつければ大丈夫。訪問者は、洞窟の奥へと進んでいきます。

洞窟の中は真っ暗!
洞窟の中は真っ暗!

 どうやら、このお客さんは「洞窟でしか聞けない音」を探しにきたようです。

 洞窟の中には、いろいろな音があります。小さく響く「ぴちゃん」「ぽちゃん」という雫がたれる音、勢いよく流れる川のような水の流れる音。

洞窟がたずねます。「ここでしか きけない おと?」「それって たとえば、こんな おと?」
洞窟がたずねます。「ここでしか きけない おと?」「それって たとえば、こんな おと?」

 さあ、そもそもなぜこのお客さんは、音を探しに洞窟にやってきたのでしょうか。

 このつづきは絵本を読んでからのお楽しみに。

真っ暗な洞窟を描くための画材たち

 洞窟が舞台のこの絵本、多くのページが暗い洞窟のシーンになっています。

 そのためこの洞窟の絵本を描くにあたって、作者のうちむらたかしさんは、暗闇の描き方について研究されたそう。この絵本の制作にあたって使用した画材の一部を教えていただきました。

うちむらたかしさんが今回『おとの どうくつへ』を制作するのに使用した画材の一部。パステルに色鉛筆、絵の具にペン、そして木炭など。たくさんの画材が使われています。
うちむらたかしさんが今回『おとの どうくつへ』を制作するのに使用した画材の一部。パステルに色鉛筆、絵の具にペン、そして木炭など。たくさんの画材が使われています。

 画材と一緒に写っている絵は、うちむらたかしさんが原画を描くときに、どこにどの画材を使い、どんな色で描くかを考えるための設計図のようなもの。紫色の字で、画材や使うペンなどがメモされています。

 原画を描く際にも、実際にこのメモを見ながら描かれたそうです。

 まず、中央にあるコルク軸のペンは普段から愛用されている輪郭線を描くためのペン。そして、その横にあるのが今回、洞窟内の線を描くために初めて使用したペンだそう。

 ペンで洞窟の線を描く方法は、洞窟のゴツゴツした岩肌のでこぼこ感を表現するために研究した結果、たどりついた方法なんだとか。

細かく描き込まれた線で、洞窟のでこぼこ感が表現されています。
細かく描き込まれた線で、洞窟のでこぼこ感が表現されています。

 普段うちむらたかしさんが画材として愛用されているパステルに加え、今回、真っ暗闇を描くために初めて使用されたのが木炭です(画面中央のグレーの小さいお皿に入っているのが、木炭とパステル。そのうち一番長くて黒い画材が木炭)。

 黒いパステルの他に、木炭も使った理由は、木炭の方が粒が細かいからだそうです。粒が細かい方がより濃い闇を表現できます。

 一方、パステルは混色がしやすい画材です。例えば、青いパステルと黒いパステルを混ぜると、青っぽい闇になります。そういうちょっとした違いで、闇の色合いや濃淡を表現していくんですね。

暗さの中にも、微妙な闇のニュアンスの違いがある面白さ。足元に広がる黒い闇は「真っ黒」を目指しました。
暗さの中にも、微妙な闇のニュアンスの違いがある面白さ。足元に広がる黒い闇は「真っ黒」を目指しました。

 さらにうちむらさんは、木炭よりも本当に真っ黒に、ムラなしで塗れる画材を探していました。

 絵本を見ると、黒が特に濃い部分がおわかりになると思います。ここは、うちむらさんが原画を描いている段階から、印刷では真っ黒のベタにすることを計画されていました。ただ、原画の時点から暗闇を塗り分けるのが重要だということで、画材にもこだわって探していたところ、とうとう理想的な画材が見つかったそう。つけペンに使う黒インクや、万年筆用の真っ黒な顔料インク、アクリル絵具の通常の黒よりももっと黒く塗れる絵具がいくつかあった中から、値段や使い勝手を考えて、そのうちの一つを採用したのだとか。

 このムラなしで塗れる画材を使っている部分は、印刷では「リッチブラック」で表現しました。

「それとも、こんな おと?」 暗闇の広がる洞窟に、音が響きます。
「それとも、こんな おと?」 暗闇の広がる洞窟に、音が響きます。

 画材にもこだわって描かれた、暗い暗い、洞窟の世界。ぜひ絵本をお手にとって、目をこらして、じっくりとお楽しみください。

うちむらたかしさんのメッセージ

 絵本『おとの どうくつへ』で、楽しんでいただきたいのは、まず、暗闇です。

 ほぼ全ページ、真っ暗な場面が続きます。

 みなさんも、お布団やこたつの中に、頭まですっぽりもぐったことがあるのではないでしょうか。あれよりも、もっと濃い暗闇が洞窟の中に広がっています。

 そしてわずかな光を頼りに、ちょっとずつ目が慣れていって、洞窟の中の様子が見えてくる感じも楽しんでいただけたら、と思います。

 それから音。

 世界から静かな場所が消えつつあるそうですが、洞窟は数少ない本当の「静かな場所」です。

 静かな場所は、音に聴くのにうってつけの場所でもあります。そこにないのは騒音だからです。静かな場所で、音はその輪郭をはっきり浮かび上がらせます。

 どんな音が聴こえてくるでしょう? 絵を見ながら、耳を澄ませてみてください。

 ぼくも小さいとき、とても古い洞窟に行ったことがあります。声が反響して面白い。でも、洞窟の奥にたまっている水を見たときに「まずい!」と思いました。

 何が「まずい」のかわからなかったのですが、そこに何かがいる、と感じたのです。

 世界中で、洞窟の奥には巨大な竜がいると昔から言われてきました。奥が見通せない暗闇、湿った空気、唸り声のような風。

 それらが洞窟に生み出す「何かがいる」ような気配。そして、その洞窟から明るい地上へ、そして自分の家にもどったときの安心感……

 絵本の中の主人公は、洞窟の奥で何を見つけたのでしょうか?

本記事は「絵本ナビ」から転載しております

おとの どうくつへ