【乙一×友井羊 対談】「乙一先生の理論がなければ作家になっていなかった」「自分は2作目がなかなか書けなくて」『怪と幽』vol.022発売記念

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2026/5/25

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年6月号からの転載です。

怪と幽』vol.022の第二特集は「乙一 三十周年 & 山白朝子 二十二周年」。本特集を記念して、今回このコーナーでは、乙一さんと、縁の深い小説家である友井羊さんに対談してもらった。友井さんは自身のデビュー以前から乙一さんとは知り合いで、大きく影響を受けているというのだが……。

――友井さんはデビュー前から乙一さんのファンだったそうですね。

友井:僕が乙一さんのファンサイトに入り浸っていたんです。

乙一:大学の後輩のM君が作った「乙一FAN!」というホームページにあった掲示板に、友井さんが書き込んでくれてたんです。そのM君から、オフ会で知り合った人が作家デビューすると聞いたんですよね。

友井:そのご縁で乙一さんの新居にお邪魔させていただいたこともありました。

乙一:友井さんの作家デビュー直前か直後くらいに、M君を交えてお食事に行ったりしていました。15年くらい前ですね。

――友井さんは大学4年の時に『暗いところで待ち合わせ』を読んだのが最初の強烈な乙一体験だそうですが。

友井:厳密には、大学1年か2年の時に乙一さんのデビュー作の『夏と花火と私の死体』を読んで、自分とそんなに年齢が変わらない方が賞を獲られたということで意識していたんですが、はまったのは『暗いところで待ち合わせ』です。当時は鬱屈していて、このまま社会に出て生活していけるんだろうかという悩みがあったので、駄目な自分に寄り添って肯定してくれる話だった点が「自分のために書かれている」くらいに思ってのめり込みました。

乙一:大昔の作品なので恥ずかしいですね(笑)。友井さんは昔からミステリを書こうと思っていました?

友井:いえ、小説を書こうと思ったのが大学卒業後くらいで、それまではマンガ家になろうと思っていたので、ミステリの手法に関しても書こうと思ったあとに学びました。当時、日記や雑誌などで小説の書き方について発信されていたのはどういう意図によるものですか。

乙一:昔から創作論が好きで、楽しんで読んでいたんですが、どうすれば小説を書けるんですかみたいに訊かれることが多かったので、ああいうシナリオ理論とかを当時は紹介していましたね。

友井:乙一先生の〈盟友〉の山白朝子さんの『スコッパーの女』にも創作理論が書かれていて、興味深く読みました。

乙一:今、小説を書く時に創作理論は頭の片隅にあったりしますか。

友井:頭の片隅どころか、ものすごく参考にしています。最新作の『巌窟の王』も構成は意識していますね。

乙一:自分はデビューしたあとに2作目がなかなか書けなくて、それで勉強しはじめて。映画も好きだったんで、こういう勉強をしていればいつか映画のシナリオにも応用できるかも、と考えていました。それが今活きていますね。

友井:乙一先生の理論は自分の中で革命というか、あれがなければ小説家になっていなかったですね。作家ごとに得意分野が違うというのはあって、だったら欠けている部分がある作家はどうすればいいかというと、やはり後付けで勉強するしかなくて、構成については僕は乙一先生が紹介されたものを参考にして、一つの作品を作れたという感じです。

乙一:得意分野と苦手分野で言うと、僕は取材が全然出来なくて、『巌窟の王』みたいなのは絶対書ける気がしないと思って読んでいたんです。あれを書いた時は綿密に取材したんですか。

友井:あれは実際に現地にも行ったんですが、事件のことを覚えている人にはお会いできなかったので、当時の資料を国会図書館とかで調べましたね。

乙一:どこまでが史実でどこからが想像なのかわからなかったです。

友井:いかにも噓っぽいところもほとんど史実で、乙一先生が紹介されていたシナリオ理論の三幕構成に史実を当てはめてなんとかエンタメに仕上げた感じです。

乙一:システムの中で押しつぶされそうになっている人が、周りの優しさや自分の情熱によってシステムから救い出されるみたいな展開に胸が熱くなりました。

友井:システムは人を救うものでもあり、人を押しつぶすものでもあるので、そのあたりを評価していただいて嬉しいです。

乙一:悪役の沼澤の描き方がすごくて、シンプルに悪いやつというより、主人公の岩田と対を成す存在みたいに読めました。

友井:沼澤にも弱い部分もあるというか、ただ悪く描くのは違うと思ってああなりました。乙一先生の作品の弱い人への眼差しというのは影響としてあります。

――友井さんは作家になっても乙一さんからの影響は大きいですか。

友井:構成部分に関しては影響は受けました。でも、作家としての資質は全然違うかなと。それこそ料理とか法律とか、調べた上でないと書けないというのが自分の能力というか。

乙一:僕は「スープ屋しずく~」シリーズみたいなのは書けそうもなくて、すごいなと思います。

友井:現実と異界が曖昧な作品を書きたい気持ちもあったんです。自然と不思議な世界に連れていかれるのが乙一先生の魅力だと思うんですが、それは意識的に書いているんですか、自然にそうなるんですか。

乙一:SF的な感覚を入れるのが好きなのが出ているんでしょうか。ファンタジー的なものを書いていても、裏側にある物理的現象はどうなってるんだろうと考えてしまいます。山白さんの『スコッパーの女』の「青軸卿」だと、なんで音があんなに広範囲に響くのかはファンタジーとしておいておいて、地滑りが起きやすくなったり魚が獲れやすくなったりとかはSFというか、背後の物理的現象が設定されている、そういうバランスが好きみたいです。

友井:山白先生の『スコッパーの女』は『GOTH』っぽいなと思ったんですが、そういったアプローチで書こうと思ったのは何か理由があるんでしょうかね?

乙一:山白先生に聞いてみないとわかりませんが、芸術のために常軌を逸した行動をとる人を書こうという意識があるんでしょうね。『GOTH』の時は殺人をアートみたいにやってしまう人を書きましたが、そのへんと通ずるのかもしれないです。

友井:常軌を逸していながら、美しさを感じるのが個人的にはすごく好きな作品でした。猟奇的な描写は久しぶりな感じだったので嬉しかったですね。『小説家と夜の境界』が変わった小説家の話だったのに対し、『スコッパーの女』は小説という媒体に脳を灼かれた人たちというか、魔力に引き込まれて道を踏み外した人の話で、小説というのは何だろうと読みながら考えさせられました。『スコッパーの女』は続編はあるんでしょうかね。

乙一:どうなんでしょうね。続けるとしても、同書での結末はリセットして無かったことにして、しれっと続きを書くんだろうなと。

――最後に、お互いにエールをお願いします。

友井:未だにずっと目標ですし、尊敬する作家さんなので、ひとりのファンとして作品を楽しみにしております。

乙一:僕は「お互い生き残ろうね」という気持ちがあります。作家になる前から知り合い経由で存在を知っていて、仲間意識みたいなものが勝手にあるので、出版界にしがみついて暮らしていきましょうみたいな気持ちがあります。

友井:生き残れるように頑張ります!

取材・文=千街晶之 写真=福島正大

おついち●1978年、福岡県生まれ。96年『夏と花火と私の死体』で集英社ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞しデビュー。2003年『GOTH リストカット事件』で本格ミステリ大賞受賞。『ZOO』『さよならに反する現象』『大樹館の幻想』など著書多数。

ともい・ひつじ●1981年、群馬県生まれ。『僕はお父さんを訴えます』で『このミステリーがすごい!』大賞〈優秀賞〉を受賞し2012年デビュー。著書に「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズ、『ボランティアバスで行こう!』『巌窟の王』など。

友井羊の選ぶ乙一の一冊

暗いところで待ち合わせ
(乙一/幻冬舎文庫) 649円(税込)

視力を失った独り暮らしの女性・ミチルの家に、殺人の嫌疑で逃亡中の男が住むようになった。ミチルは気づかないふりをするが……。孤独な人間同士の交流が印象に残る、乙一の初期代表作。

友井羊 新刊

巌窟の王
(友井 羊/光文社) 2145円(税込)

1913年、愛知県で殺人事件が起き、硝子吹き職人の岩田松之助が警察に連行された。彼が長い歳月を耐え忍び、日本司法史で前代未聞の再審無罪を勝ち取るまでを描いた、著者の新たな代表作。

山白朝子 新刊

スコッパーの女
(山白朝子/KADOKAWA) 1870円(税込)

同業者たちの生態に興味を抱くようになった小説家の「私」が収集した、信じがたいほど異常極まりないエピソードの数々。小説の創作に携わる者たちの業を描いた、奇想に満ちた連作短編集。

怪と幽』vol.022 4月27日発売

特集1 はじめてのクトゥルー
インタビュー 荒俣 宏 東 雅夫 田辺 剛 長澤 剛 星空めてお
座談 坂本雅之×内山靖二郎×竜騎士07
寄稿 朝松 健 池澤春菜 貴志祐介 月村了衛 南條竹則 森瀬 繚 沖田瑞穂
小説寄稿 菊地秀行 黒 史郎 黒木あるじ

特集2 乙一 三十周年 & 山白朝子二十二周年
インタビュー 乙一 山白朝子
対談 乙一×近藤亮太
寄稿 乙一 河野 裕 佐藤友哉 住野よる 舞城王太郎 千街晶之

<第13回に続く>

ダ・ヴィンチ 2026年6月号 [雑誌]

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暗いところで待ち合わせ

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巌窟の王

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スコッパーの女 小説家シリーズ (角川書店単行本)

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怪と幽 vol.022 2026年5月

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