不動明王が出る居酒屋。閉店後の実際の写真、その異様な様子とは…思い出すのも怖い、実話怪談集『ぞくりぞくり 読むと寿命が減る話』【書評】
PR 更新日:2026/6/4

『ぞくりぞくり 読むと寿命が減る話』(平山夢明、黒木あるじ、冨士玉目/竹書房)は「怖すぎて寿命が減ってしまうかも……」と慄くほど、読者を震え上がらせる実話怪談集である。
著者は、作家として長年活躍する平山夢明さん、数々の実話怪談を上梓している黒木あるじさん、普段はサラリーマンだという冨士玉目さんのお三方。
体験者及び関係者に取材した内容をもとに「怪談巧者」の彼らが、恐怖たっぷりに綴った短い怪談が30編ほど収められている。
どのお話も読みやすく端的な構成でありながら、情景がしっかり浮かぶ表現力とインパクトのある怪談が多かったと思う。読み終わった後も、ふとした拍子に思い出してしまい、つい背後を振り返ってしまうほどだ(誰もいないことを確認して安心しつつも、なぜか鳥肌が治まらないという……)。
冨士玉目さんの「白い犬部屋」は、心霊的な意味ではもちろん、深い憎悪を抱く、生きている人間も十分に怖いと思わせてくれた。
あらすじはこうだ。
ドッグトレーナーのミナミさんは、大型犬の仔犬をトレーニングしてほしいという依頼を受け、神奈川にある、お宅に通っていた。その家には広々とした「犬部屋」があり、仔犬のトレーニングをしていると、足元に「白い犬っぽいもの」が現れるように。
ミナミさんは、以前小型犬でも飼っていたのだろうか、その幽霊がさまよっているのだろうか…と飼い主の男性に聞いてみるも、「飼ったことないですけど」。
では犬部屋に現れる「小型で毛足の長い犬」は何なのだろうか。飼い主の男性は、思い当たる「存在」があるようで……。
黒木あるじさんの「不動明王のいる店」も、怖かった。
都内のぼったくり居酒屋でアルバイトをしていた男性のお話だ。頻繁に客とのトラブルが起こる、かなりブラックな職場だったという。
ある時そこで、男性は「人間のシルエットをした黒煙の男」を目撃する。最初はぎょっとしたものの、何回か遭遇しているうちに、髪型や顔、服装が不動明王に似ているのではないかと思うようになる。
恐ろしい表情をして、「悪いもの」を追っ払ってくれる不動明王様がいてくれるなら、こんな劣悪なバイトも続けていられると、前向きな気持ちになったそうだ。――店長から、この店で起こった「ある事件」を聞くまでは……。
このお話は、神聖な存在だと思っていた「何か」の正体が分かり、「だから不動明王だと思ったのか……!」という「真実が分かった時」も怖いのだが、後日談の話も怖い。
店の住所を聞いていた黒木さんは、後日、その居酒屋に足を運んでみたらしい。
店自体は閉店していたのだが、その「閉鎖された空間」が異様で……。黒木さんが実際に撮った写真も掲載されているので、ぜひ震えてほしい。幽霊が写っているとか、そういうわけではないのだが、なぜこんなにも薄気味悪く感じるのだろうか……。
平山夢明さんの「ぼちそうさま」は、人の憎念と、病によって顔が溶けていく人間の様が、とにかくゾッとする。
チエさんという方の父親は、母親に暴力を振るう上に愛人も作るという、どうしようもない男だった。それでも女一人で生きていくのが難しい時代、母親は父親の暴力に耐えていたそうだが、その母親が、ある時から深夜、墓地に通うようになり……。母親は何をしているのか。チエさんが見たものとは――。
「呪い系」の話が好きな方には、特にたまらない物語なのではないだろうか。グロテスクな描写もあるのだが、それもまたおぞましい刺激となって、恐怖を増幅させていると感じた。
多種多様にぞくりとさせてくれる本作。暑い夏の夜、必ずや背筋を冷やしてくれるだろう。
文=雨野裾
