ベストセラー作家・伊坂幸太郎最新作『ホワイトラビット』の読みどころは?

文芸・カルチャー

2017/10/28

『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎/新潮社)

 読者はベストセラー作家・伊坂幸太郎の作品を読んだことがあるだろうか。ユーモラスで読みやすい文体とテンポの良いストーリー展開。そして随所に張り巡らされた伏線から、あらぬ方向に話が展開するラストのどんでん返し。筆者を含めた多くのファンが伊坂ミステリーに魅了されている。そして2017年9月に書き下ろされた最新作『ホワイトラビット』(伊坂幸太郎/新潮社)も、その期待に応える作品だろう。「今回こそはラストのオチを読み切ってやる」と挑んだ筆者だったが、またしても見事に裏切られ、本作品の後半は無我夢中でページをめくってしまった。

■今回のあらすじ

 本作品は、誘拐を生業とする兎田孝則の奥さん・綿子ちゃんが犯罪グループに誘拐されてしまうところから始まる。犯罪グループが綿子ちゃんを誘拐した理由は、胡散臭いコンサルタント野郎・折尾が犯罪グループの資金に手をつけ、どこかへ持ち去ってしまったので、その折尾を見つけ出してもらうべく兎田に必死になってもらうため。犯罪グループの一方的かつ利己的な理由で事件に巻き込まれてしまった兎田と綿子ちゃん。まあ自業自得といえば自業自得だが、とにかく必死になって折尾を探し回った兎田は、ある一軒家に辿り着く。そしてその家の人々とすったもんだあり、籠城事件を起こすのだが……。

 本作品の登場人物としてもう1人、重要な男がいる。伊坂幸太郎ファンならおなじみの、泥棒を生業とするあの男だ。この男も、仲間というか部下というかムカつく奴というか、とにかくアホで無責任な男のせいですったもんだあり、事件に巻き込まれてしまうのだった。

■オリオン座とレ・ミゼラブル

 伊坂幸太郎作品では、毎回ある事柄が取り上げられる。『重力ピエロ』ならば遺伝子と芸術。『アヒルと鴨のコインロッカー』ならばブータンの風習とボブ・ディラン。『グラスホッパー』ならば……いやもうやめておこう。『ホワイトラビット』ではオリオン座が取り上げられた。台形を2つ足したような形の、誰もが知っているあの星座だ。そしてもう1つ。「レ・ミゼラブル」もストーリーに割り込んでくる。小説のまるまる1章を使って「パリの下水事情」という関係ない話をぶっこんだ本家「レ・ミゼラブル」よろしく、今回もストーリーの途中で割りこんでくる両者の話が心地いい。……と思っていると、後半でオリオン座と「レ・ミゼラブル」が伏線として姿を現し始めるので、伊坂作品の恐ろしさ、いや奥深さを感じる。

■特殊捜査班SITの指揮官・夏之目課長

 最後にもう1人だけ、本作品の重要人物を紹介したい。特殊捜査班SITの現場指揮を執る夏之目課長だ。彼は表向き、仕事ができ、部下の人望もあり、ユーモアも交えることができる有能な男だが、実は暗い過去を抱えている。彼の奥さんと娘さんを交通事故で亡くしているのだ。

 このときから夏之目課長の内側が抜け落ち、抜け殻のような人間になってしまった。それを取り繕うように、夏之目課長は昔の自分の振る舞いをマネるようにして生きている。この男が本作品のストーリーにどう関わってくるのかは、読者のお楽しみとさせていただきたい。

 伊坂幸太郎のミステリーは、様々な事情や過去を抱える人物たちの感情や思いが1つの結末に向かって転がるように展開していく。それは伊坂さんの人生観をラストに結集させているも同然であり、そこに共感を覚えるからこそ、読者は伊坂幸太郎ファンと化していくのではないだろうか。

 私たちは人生を歩んでいると、いろいろなことに遭遇する。その「いろいろ」をつめこみ、1冊のミステリーに仕上げるのが伊坂作品の真骨頂であり、人生の「いろいろ」に何か思うことがあるときは、ぜひ伊坂幸太郎の本を手にとってみてほしい。

文=いのうえゆきひろ