感涙必至の連作医療ミステリー! 2018年本屋大賞でも注目の知念実希人が、研修医の日常と患者の謎を描く

文芸・カルチャー

更新日:2018/4/2

『祈りのカルテ』(知念実希人/KADOKAWA)

 世の中には気が遠くなるほど数多くの病がある。医者は目の前の患者一人ひとりと向き合い、患者の抱える病を見極め、患者にあった適切な治療をしていかねばならない。しかし、それはどれほど難しいことか。簡単に診断がつく病もあれば、一体何に問題があるのか見えにくい病もある。あらゆる状況を整理して患者が抱える問題の根源にせまる医者はまるで探偵のようだ。

『崩れる脳を抱きしめて』が、2018年本屋大賞にノミネートされている知念実希人氏の最新作『祈りのカルテ』(KADOKAWA)は、新米医師が患者の抱える問題を解き明かす連作医療ミステリー。知念氏といえば、「天久鷹央の推理カルテ」シリーズや『仮面病棟』などの著作で、現役医師だからこそ描けるリアルな医療現場とそこで起こる不可思議な事件を描いた驚きと感動の医療ミステリーを生み出してきた。この作品でもそれは同様。人の心に寄り添うのを得意とする新米医師とおかしな患者たちの交流とその謎解き明かしに、読者は爽快感と感動を覚えるにちがいない。

 主人公は、純正医科大学附属病院の研修医・諏訪野良太。一般企業に就職した新人たちに研修があるように、医学部を卒業し、医師国家試験に合格して晴れて医師となった者たちは、研修医として2年間の初期臨床研修を受けることになる。研修では、内科、外科、小児科、産婦人科、救急など、様々な科を数カ月ごとに回って、医師としての基礎力を身につけるのだ。そして、その中で、医師たちは自分の専門を決めることになる。良太もあらゆる科を回り、患者たちと関わりながら、自分には何が向いているのかと悩む日々を過ごしていた。

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 初期の胃がんの内視鏡手術を拒否する高齢男性。喘息で何度も緊急搬送されてくる子ども。心臓移植のため、海外での手術を受けようとする女優…。良太はいろんな科を巡りながら、個性豊かな患者たちと出会うことになる。患者たちの言動は一見理解不能。たとえば、精神科を回っている時に出会った女性は、毎月のように睡眠薬を大量に摂取しては病院に緊急搬送されてくる。離婚して以来そのような行動を起こし始めたというのだから、元夫に心配してほしいのだろうか。しかし、良太は女性の態度に違和感を覚える。なぜ彼女は毎月5日に退院するようにと病院に入院しにくるのか。良太は患者と接する中で、患者の抱える真の問題に気がついていく。

 良太は、人の気持ちに寄り添うのが得意。患者の話を聞く中で、その問題の正体に気づくことができる洞察力にも優れている。だが、そんな能力を生かすために将来的にどの科にいけばいいのかというと選択は難しい。外科の指導医には、「外科では患者一人ひとりと向き合うというよりも手術中心の生活になる」と言われ、精神科の指導医には「もし精神科医になったら、たぶん5年以内に、君は治療を受ける側に回ることになる」と言われる。良太は将来的にどこの科に進むのか。患者との交流のなかで、次第に良太は進みたい方向性を見つけ出していく。

 患者たちは、何に不安を抱えているのかを言語化することなく、不可解な行動を起こしては医師たちを困らせている。医者はこんなに大変な思いをして患者と向き合っているのか。せっかく診てもらうなら、こんな医師にかかりたい。謎が明かされた時の爽快感と安堵感。そして、心に染み渡るような感動。感涙必至の連作医療ミステリーをぜひともアナタも手にとってみてほしい。

文=アサトーミナミ