80年代生まれ起業家たちの「ビジネス×人生」本にみる“幸せ”とは?

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更新日:2012/12/18

 最近の若者は……となにかと年配者に嘆かれるイマドキの若者たち。よく言えばマジメで素直だが、悪く言えば「内向き志向」と思われがち。大人が若者にアレコレ言いたがるのは昔も今も変わらないが、社会変化に応じた若者たちの意識変化を感じるのも確か。

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 象徴的なのが、憧れの対象となる“成功者像”だ。ひと昔前ならば、高級車に乗って億ションに住み、休みの日はゴルフ三昧といった生活が憧れだったが、イマドキの若者たちは、必ずしもそうした生活が素晴らしいとは考えていないようだ。

 そんなイマドキの若者世代で、史上最年少の25歳という若さで東証マザーズに上場を果たしたリブセンス社長・村上太一を取材したのが、リブセンス <生きる意味> 25歳の最年少上場社長 村上太一の人を幸せにする仕事』(上阪 徹/日経BP社)。どんなイケイケ社長かと思いきや、特に大きなことを言いたがるわけでもなく、あくまで謙虚な「ごく普通の25歳」といった印象だ。

 村上は大学1年生の時に学生仲間と求人サイト「ジョブセンス」で起業。無料で求人広告を掲載でき、採用が決まってはじめて料金が発生する「成功報酬型」という画期的なシステムと、採用が決まった応募者に最大2万円の「採用祝い金」がもらえることで、後発ながら多くの利用者を募ることに成功した。同年代ではまず手に入らない額の資産を手にしたにもかかわらず、村上はこれまでよりも狭い賃貸マンションに引っ越し、冷蔵庫もない生活をしているのだ。友達と飲みに行く時も、これまでどおり安い居酒屋に行くという。

 リブセンスの経営理念は“幸せから生まれる幸せ”というもの。人を幸せにすることによって、自分たちも幸せになれるという考え方だ。きれいごとのように聞こえるかもしれないが、「欲しいのは精神的な豊かさだと思うんです。それ以外は普通でいい」と語るように、安易に「成功=お金」とは考えていないようだ。

 また、『クビでも年収1億円』(小玉 歩/角川フォレスタ)は、大手企業をクビになった著者が、ネットビジネスで年収1億円を可能にするノウハウを記したものだが、強調されているのはお金持ちになったことではなく、家族と過ごす自由な時間を手に入れ、イクメン生活が送れるようになったこと。「大企業=安定」といった考えが、実は洗脳されてきたものにすぎず、「自由にできる時間」こそがあらゆる幸せにつながっていると考えているのだ。

 村上太一は1986年生まれ、小玉 歩は1981年生まれ。同じく80年代生まれの社会学者・古市憲寿が『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)のなかで、まさしく現代の若者特有の幸福感について考察している。内閣府の2010年度「国民生活に関する世論調査」によれば、20代の70.5%が現在の生活に「満足」と回答。ただし、不満はないけど「不安」は大きい。社会や将来に過度に期待しない代わりに、仲間とコミュニティで過ごす“今”という時間を大切にすることが、現代の若者の幸福感と結びついているとしている。

 古市憲寿の近著『僕たちの前途』(講談社)では、「いい学校、いい会社、いい人生」といったモデルから降りた若き企業家たちを、自らもその一員としてルポしている。社員は3人まで。そして同じマンションの別の部屋に住む。誰かが死んだ時点で会社は解散。それは「会社」というよりも「ファミリー」にも近いコミュニティだ。立身出世やヒルズ族を望んでいるわけじゃない。

 こうした80年代生まれの価値観や考え方を見ていくと、たとえ成功したとしても、ささやかな幸せ(精神的豊かさ)を大切にしていることがわかる。これは「内向き」というよりも「地に足がついた」というべきだろう。「ひ弱」だとされる現代の若者だけれど、実はけっこう強いのかもしれない。

文=大寺 明