あの人気マンガ家がBLに極秘転向していた!?

BL

公開日:2013/2/24

 『ママはぽよぽよザウルスがお好き』(幻冬舎)や『子育テーゼに乾杯!』(竹書房)などの子育てコミックエッセイで大人気の青沼貴子。青沼といえば、もともとは少女マンガ家としてデビューしており、代表作である『ペルシャがすき!』(集英社)はスタジオぴえろの魔法少女シリーズとしてアニメ化されるなど、大活躍だった。アフリカ育ちの主人公・ペルシャが話す「わーの」「きゃーの」「うっすらパー」という言葉は、当時女の子の間で流行語になったほど。そんなふうに少女マンガ界で脚光を浴びた彼女だが、子どもが生まれてからは子育てコミックエッセイに転向。ガラッと絵柄を変えて『ママはぽよぽよザウルスがお好き』という不朽の名作を生み出し、今なお数々の作品を手がけている人気マンガ家である。そんな彼女が、なんと今度はBL作品に挑戦したというのだ。

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 1月18日に発売された『青沼さん、BL漫画家をこっそりめざす。』(イースト・プレス)では、一般の投稿者としてゼロからBL作家デビューを目指して奮闘する彼女の姿が描かれている。そもそもマンガ家を目指すことになったきっかけは、少女マンガにあったボーイズラブのジャンルに興味があったから。彼女は「私もいつか漫画家になって男の子のめくるめくこういう漫画を描きたい!」という強い思いで、マンガ家デビューを果たしたのだ。そんな念願が叶ってついにBL作品を描くことになった彼女だが、BL作家デビューするためには数々の試練が待ち受けていた。

 そもそも、「家族にBLが好きなことをカミングアウトしていない」青沼さん。「このドラマBLっぽい キモい」なんて言うくらいBL嫌いな娘のアンにオタク系の息子リュウ。お風呂に入っているときにドアを開けただけで怒る「妙に潔癖なところがある」旦那。彼らに腐女子であることがバレてしまったら大変! ということで、趣味や資料用のBLの本棚には前面に服をかけてカモフラージュし、夫や娘、息子が部屋に入ってくるときにはすぐさまBL本を紙袋に入れて隠す。アシスタントで腐女子仲間でもあるあっちゃんと一緒にBLのCDを聞いていても、BLネタの会話をしていても家族が来たら反射的にストップ。こんな家庭環境で、こっそりBL作品を描いていくのだ。

 そして、BLに目覚め、中学生の頃から構想を練ってきたという青沼さん。その頃から温めてきたという作品は中世ヨーロッパが舞台で、没落貴族出身で金髪の美しい青年ジュピター様と司祭の1人息子で「ジュピター命でややストーカー気味」のJが繰り広げる物語を描いたもの。そのあらすじを嬉々として担当編集者に説明すると「話、古くないですか?」とバッサリ。「あたしが30年も温めてきたストーリーを古臭いですってぇ!?」と泣きわめくと、さらに追い打ちをかけるように「30年も温めてるから古臭くなるんですよ」と言われてしまう。それでもめげずに、ジュピター様とJを描くのだ。

 2人してまっさきに馬のスクリーントーンを買ってきては嬉々として原稿に貼りまくるし、子育てマンガでは絶対に描くことのなかったビーチク(乳首)トーンではしゃいだりもする。おまけに、あっちゃんや美大出身のその娘にお城や帆船を描いてもらったり、BLだとバレないシーンは娘のアンにベタとトーンを手伝ってもらう。

 そうやってなんとか完成した作品を今度は持ち込みに行くのだが、ここでもまたさまざまな苦労が。いくつものヒット作もあるプロのマンガ家が、ペンネームを伏せ、本名で「持ち込みしたいんですけど」と自分で電話をかけて予約を取るところから始めるのだ。この緊張感と恥ずかしさは尋常じゃないはず。それほどの勇気を振り絞って向かった出版社で、プロの漫画家として活躍している彼女が「漫画スクール」をすすめられ、帰り際には思い出したかのように笑顔で「これプロの先生方の複製原画です どうぞ」なんて言われる屈辱を味わう。そんな苦労を乗り越えて、青沼さんは無事BL作家デビューすることができたのか?

 少女マンガ、コミックエッセイ、ジャンルを変わっても、そこに合った名作を残して活躍してきた青沼さん。果たしてBLでは、どんな絵柄のどんな作品を手がけたのか? 彼女の妄想と血と涙と汗がたっぷり詰まった『GOLD』は、『青沼さん、BL漫画家をこっそりめざす。』に掲載されているので、ぜひチェックして欲しい。