カワイイだけじゃない! 「アイドルダンス」の奥深き世界

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更新日:2013/5/21

 AKB48が牽引するかたちで続いている日本のアイドルブーム。国外でも「カワイイ」という日本語が通用することもあるほどで、いまや日本の国策ともなっている。

 そんなアイドルの魅力のひとつは、そのキュートなダンスにあるだろう。しかし、プロのダンサーでもない、なかには基礎もできていないような彼女たちの踊りに、人びとはなぜここまで魅了されるのだろうか。

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 そんな秘密に迫っているのが、『IDOL DANCE!!! 歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい』(ポット出版)という本。これは、人気急上昇中の「PASSPO☆」や「アップアップガールズ(仮)」の振付を担当しているコレオグラファー(振付師)・竹中夏海が、アイドルのダンスの魅力を解説している1冊だ。

 まず、アイドルダンスの大きな特徴は、「曲の歌詞と振付がリンク」していること。これはいまにはじまったことではなく、遡るとキャンディーズの『年下の男の子』でも“サビで左拳を男の子の頭に見立て、右手で撫でる”という振付がなされていた。いま行われている振付は「時代と共に表現はより細やかになり、進化」してきた結果なのだ。

 とくにそれがよくわかるのが、Perfumeの『チョコレイト・ディスコ』。歌詞には女の子がチョコレートをつくっている描写は出てこないが、間奏のダンスでは「ボウルを抱え泡立て器でかき混ぜ、人差し指ですくって味見する」という振付が登場するのだ。これにより、“この主人公の女の子は「心を込めて」チョコレートを手作りしたのではないか”ということまで想像することができる。これは「歌詞と振付がリンクするだけではなく、歌詞カード以上の物語を“振付によって広げる”ことも可能」という好例だろう。

 また、アイドルダンスの2つ目の特徴は、「振りコピ文化がある」ということ。歌詞と振付がリンクしていることによってアイドルのダンスはキャッチーな動きが生み出されるが、その動きはとても真似をしやすいもの。よって、「わたしも真似したい!」という欲求を掻き立てられる。しかも、真似をしやすいダンスは、「多くの人が参加しやすい入口」になるため、ライブを盛り上げるには最適だ。

 しかし、これを多用するのは「諸刃の剣」だと著者はいう。パフォーマンスを観たい人にとっては、この単純な動きの連続が退屈さに繋がってしまうからだ。すなわち、アイドルダンスに必要なのは、振りコピ層にも非・振りコピ層も楽しめるようにバランスを取ること。とくにPVでダンスショットバージョンがつくられるようになったのは、「何度か見て練習しないと出来ない振付」に人気が集まったからこそ。動画サイトの「踊ってみた」が文化として定着したいま、熱心に努力をする振りコピ層の存在も非常に重要なポイントなのだろう。

 このほかにも、衣装とダンスの関係や、実際にPASSPO☆の振付が細かく解説されているコーナーなどは、アイドルファンにとって非常に勉強になるはず。ちなみに本書では、海外でも活躍するコンテンポラリーダンスカンパニーである「珍しいキノコ舞踊団」のダンサーが対談に登場しているのだが、アイドルグループにおけるフォーメーションを変えながら踊る技術や、ひとりで何人分ものポジションを覚えるAKB研究生の存在について、「相当凄い」「私ならムリ」と絶賛している。

 簡単そうでいて複雑、見れば見るほどハマってしまう。アイドルダンスの奥深き世界を、ぜひ本書でも味わってほしい。