ゲーム『いっき』が小説に! こちらはエンディングあり?

マンガ

公開日:2013/7/29

 あの、伝説のゲームが帰ってきた。しかも、小説になって。そのゲームの名は『いっき』。そう、かつてファミコン全盛期に、ちびっ子たちに衝撃を与えたゲームが『いっき LEGEND OF TAKEYARI MASTER』(おかず:著、一二三書房:編集、うりも:イラスト/一二三書房)と名を変え、小説となって帰ってきたのである。

 そもそも『いっき』って何? と思われる方もいるだろう。ここで簡単に説明しておきたい。このゲーム、百姓一揆を題材にしたチャレンジ精神というかパイオニア精神というか、なにかそんな精神が満載のゲームで、数限りない冒険心あふれるソフトたちが乱立したファミコン全盛期を象徴するようなゲームなのである。『いっき』というだけあり、主人公は農民。2Pキャラは主人公と色が違うだけの農民。彼らは、悪代官を成敗するため、その屋敷に乗り込むことを決意する。ここで注目したいのが人数で、最大でもたったの2人。村八分にされていたものの、他の農民が悪代官からの圧政を受けたりしているのを見かねて立ち上がったのだろうか。そこらへんの説明は一切ないので、想像することしかできないが、2人だけで一揆を行うということは、もしかしたらそういうことなのかもしれない。

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 まだまだおかしなところはある。たとえば、まがりなりにもテーマとタイトルが一揆なのにも関わらず、ステージクリアの条件が「ステージに散らばる小判を8枚集めること」であったりとか、基本武器が鎌で、相手に投げつけるのだが自動照準機能搭載としかいえないような仕様で、えらい正確に相手に向かって飛んでいくため、「投げているのは本当に農民なのか?」といった疑問が浮かんでしまう。また、パワーアップアイテムのひとつがなぜか「竹ヤリ」で、取った瞬間から真上に竹ヤリを突く動作をしはじめるため、攻撃範囲が真上だけになってしまうといったマイナス面が目立ってしかたない仕様であったり、一揆なのに、基本の敵が侍などでなく、なぜか忍者だったり、ツッコミどころは枚挙にいとまがないほどで、もうやりたい放題の極地。ゲームは用意した、さあ遊べ、足りない部分は自分たちでなんとかしろ、とでも言われているような気分になってしまう。

 当時のファミコンソフト群の例に漏れない難解なゲーム性も相まって、ちびっ子たちに衝撃を与え、その記憶に強く刻まれたこのゲーム。小説では、いったいぜんたい、どうなっているのだろうか。まず主人公の権兵衛が、ゲームでは若干腰の曲がった、農民ぜんとした風貌の人物だったのに、えらくかっこいい青年へとバージョンアップしている。そして、おそらく2Pキャラだと思われる人物も、タエと名を変えるどころか性別すらも変え、非常にかわいらしい女性になっているのだ。長らくの間謎だった部分も解き明かされており、たとえば、一揆を起こした経緯についても語られている。かいつまんで説明すると、新たに赴任してきた代官が過酷な年貢の取り立て、それを払えない者への乱暴など暴虐の限りをつくしはじめる。その手は、主人公たちの村にも迫り、代官の手の者により、村は焼かれ、多くの村人が惨殺されてしまう。怒りに震える主人公らは、代官への直訴、つまり一揆を決意し、代官の屋敷へと向かう。また、たった2人で向かうというところにも理由は書かれている。じつは、主人公とタエは、かつて戦国の世に生きた忍の末裔らしく、その技と力を受け継いでいるのである。つまり、2人はただの農民ではないのだ。しかも障害となる代官の手の者も、元忍者だったりするので、まさに適材適所。これで、なぜ2人だけで立ち向かうことになったのか、という謎の解明とともに、なぜ農民なのに正確無比なコントロールで鎌が投げられるのか、といった謎や、なぜ敵が忍者なのか、といった謎も説明されたのである。

 パワーダウンアイテムとして有名な竹ヤリも、小説では主人公の得意武器のひとつで、最終決戦では、最大の敵に対して竹ヤリで挑んだりもするのである。もう、ここまでくれば、竹ヤリは立派なパワーアップアイテム。長年の時を経てようやく、汚名返上となったのだ。しかも、その最後の戦いでは、ゲームで竹ヤリを入手したときの如く、前に突いて突いて突きまくるのである。その設定の生かし方は見事というほかなく、もし殿様だったのなら、褒美に小判でもあげてやりたくなるだろう。

 ネタバレになるが、じつは『いっき』にエンディングは存在しない。当時、苦労した末に最終面をクリアしたにも関わらず、2周目がスタートし、絶望の渦に突き落とされた方々は、この本で、その最後を補完してみるといいだろう。そうすれば、当時の苦労はきっと報われることだろう。

文=オンダ ヒロ