夢枕獏、萩尾望都、三浦しをんらも絶賛の今市子『百鬼夜行抄』

マンガ

更新日:2013/10/17

 妖マンガの最高峰の一つと謳われる今市子の『百鬼夜行抄』。

 亡き祖父から「妖魔を見る」力を受け継いだ主人公・律とさまざまな妖魔との出会いが、繊細で耽美なイラストレーションで織り成される不思議絵巻だ。累計480万部突破の同作が、10月12日発売の『Nemuki+11月号』で連載100話を達成。10月8日には待望の最新22巻も発売された。そして、今市子もデビュー20周年を迎える。

advertisement

 これを記念して、『ダ・ヴィンチ』11月号では『百鬼夜行抄』を特集。映画化もされた人気小説シリーズ『陰陽師』で知られる夢枕獏や、少女SFマンガの天才ともいわれる萩尾望都、そして直木賞作家・三浦しをんがそれぞれ絶賛コメントを寄稿。今市子本人のインタビューも掲載している。

 また、版元の朝日新聞出版では、特設サイトを設置。初見の読者のために、400ページを超える単行本1・2巻を無料公開しているほか、100話達成記念のイメージ動画を公開している。

 本作の主人公、律は強い霊力を持つが、妖魔を退治するわけではない。探偵でもない。むしろ優れた観察者だ。彼の眼と心はとても澄んでいる。彼に触れることで、妖魔の心も澄んでいく。同時に、私たちの心も開かれる。律と妖魔に自然に寄り添い、物語に深く耽溺するのだ。

 でも妖マンガは少し苦手、そんな方もいるだろう。しかし、ご安心を。『百鬼夜行抄』にはもう一つ大切な主題がある。それは“家族”、すなわち律と飯嶋家の人々の人生だ。律がその霊力を受け継いだ亡き祖父・蝸牛、おおらかで明るい祖母と母、美人で酒豪のいとこの司、失踪した謎の伯父……。飯嶋家はなかなかの大家族だ。祖母はなぜ蝸牛と結婚したのか、伯父は生きているのか、律の将来は? 一人一人に歴史があり、抱えているものがある。それが長い連載を通して、とぎれることなく静かに語られる。私たちは、飯嶋家の人々とともに人生を歩んでいるかのような快い錯覚を覚える。

 妖魔との出会いという横糸と“ファミリーヒストリー”ともいえる縦糸。『百鬼夜行抄』はその二つが複雑に、しかし気持ちのいい規則性を持って紡ぎ出す、極上の絹織物のような物語なのだ。

(『ダ・ヴィンチ』11月号「コミック ダ・ヴィンチ」より)