日本一ジジイとババアに接してきた男・毒蝮三太夫が教える、究極の介護術!

人間関係

公開日:2014/7/3

 1969年から始まり、今年の10月で放送45周年を迎える『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』。TBSラジオ『大沢悠里のゆうゆうワイド』の中のコーナーで、月曜から金曜の午前10時半頃から始まる30分ほどの公開生放送。毒蝮三太夫さんが店や会社などを訪れ、そこに集まる人たちやスタジオとトークを繰り広げて曲のリクエストに応えるという内容だ。毒蝮さんが社長を務める「まむしプロダクション」のホームページ「まむちゃんの部屋」によると、これまでに訪れたのは10000軒以上、出会った人は59万人以上で、これはなんと日本の人口の220人に1人が毒蝮さんに会ったことになるそうだ!

 そのロケ先に集まるのは主に高齢者。毒蝮さんは親しみを込めてその高齢者を「ジジイ」「ババア」と呼ぶ。さらに「ババア、年は80か? もう2~3時間の命だろ」「ジジイ、死に方忘れたか?」「うるせぇババアだな」「なんだい、このジジイは藁人形みたいな顔しやがって」「この店は何年やってんの? 40年? 40年やってこれか」などと数々の暴言を吐きながら、集まった人たちから「まむしさん」「まむちゃん」と愛されている。この「日本一ジジイとババアに接してきた」経験を活かし、高齢者とのコミュニケーション術と言葉による介護について、まるで毒蝮さんが語りかけるような文章で書かれているのが『毒蝮流! ことばで介護』(毒蝮三太夫/講談社)だ。

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 実は毒蝮さん、最初にラジオで「ババア」呼ばわりした時はリスナーから抗議がきたそうだ。しかし「放送も面白かったし、お年寄りに対して優しい気持ちが感じられた」と続投が決まったという。その優しさについて、毒蝮さんは「一度ケナしておいてから、必ずいいところを見つけてホメている」と言う。そして「一度懐に入り込んで人間性を認めてもらえれば、もうよほどヒドいことを言っても“あんたなら許す”と受け入れてくれるんだな」と秘訣を語り、それにはどこまでなら言っても大丈夫かを見極める経験が必要で、「ガラは悪くても、ハラは黒くない」という「下町の口の減らない悪ガキ」であることを大事にしているそうだ。また必ず笑顔で接すること、そしてどのみち介護は「不快空間」なのだから、それを心の持ちようで、明るくて楽しくてカッコいい、そこにいるだけで体も心もリラックスして気分がよくなる「快適空間」にできるかどうかがポイントだと言う。

 また「年寄りはかまわれることがうれしいんだ」と言う毒蝮さん。高齢者は自分の話をちゃんと聞いてくれているのか、自分に接していることが時間の無駄だと思われていないかといつも気を遣っているそうだ。なのでしっかりと話を聞き、高齢者も世の中の役に立ちたがっているという気持ちを大事にしてあげて欲しいと毒蝮さんは言う。また気にかけるけれどもお節介はせず、やったことに対しての見返りを求めないといった昔の下町のような「かまい合い」をすることが大事で、その背景には毒蝮さんが「人のお世話にならぬよう。人のお世話をするように」と母親から教えられたことがあると語っている。また介護に必要な「3K」という考え方、介護される方も心構えが必要なことなど、毒蝮さんの経験に裏打ちされた言葉は、超高齢化社会を迎えている今、見守る側も、見守られる側にとっても有効な処方箋となるはずだ。

 毒蝮さんの父親は、近所の高齢者に「ババア、かたまってねーか?」と声をかけていたという。死後硬直をネタにするのは普段の関係性があってこその「かまい合い」であって、いきなり見ず知らずの高齢者に向かって「ジジイ」「ババア」と呼んだら、普通なら確実に叱られる。毒蝮流を見習いつつ、自分なりの「かまい合い」のやり方を、本書をゲラゲラ笑いながら見つけて欲しい。

文=成田全(ナリタタモツ)