傍観者・ビッチ・監禁被害者…BLのお約束ぶちこわす『女子BL』

マンガ

公開日:2015/10/11

『女子BL』(志村貴子ほか/リブレ出版)
『女子BL』(志村貴子ほか/リブレ出版)

 僕がいて、好きな人がいて、ときどきセックスをして。BLというのは、制約の多いジャンルだ。このルールに従いつつストーリーを展開しなければならない。だがそこにさらなるルールを設けたら……。新たなBLの切り口を開いたのがアンソロジーコミック『女子BL』(リブレ出版)だ。

 女子が主人公で女子の視点。すべての作品に女が絡んでくるという。だがこれは特別なシチュエーションではない。いわばBL愛好家と同じポジションである。日常生活で見かけた、戯れる男子高校生を見て萌えたり、電車で居眠りしているオッサンに妄想したり。そんな腐女子を一人、作品に登場させただけなのか? いやそれだけではない。本書では、志村貴子氏や秀良子氏、市川けい氏ほか10人の作家が工夫をこらし男同士のカップルに女子を絡ませている。

女=モブキャラの悲哀

 カップルのどちらかに恋する傍観者。それがもっともなじみのある女子の登場のさせ方だろう。今までのBLのモブにさらにフォーカスした展開だ。この傍観者が、いつ・どのようにして意中の人が「男が好き」と気がつくのか。この違いにそれぞれの作家らしさが現れていて興味深い。

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 志村貴子氏の「玉井さん、恋と友情」では、あやうい兄弟の関係を、志村氏独特の切なさで描いている。また秀良子氏の「少女C」。登場人物AでもBでもなく、C。モブのなかでも下っ端の女の子に悲哀を感じる作品だ。

添えものではない骨太の女子キャラ

 視姦という愉悦さを存分に楽しめるのが、糸井のぞ氏の「ストックホルム」。これは誘拐犯と被害者という、設定だけで萌える作品だ。女子高生に一目惚れし、ストーキングをしたあげく連れ去った犯人。そして共犯者はなんと学校の先生。女子高生は鎖でつながれ監禁。これだけでもエロティックだ。だがただのエロスだけに留まらない。

 なぜ女はBLが好きか。その問いの一つに、「いい男をほかの女に渡したくない」という気持ちがある。「男ならしょうがない」という諦めの境地になれるからだ。その心情を代表するのが、先ほどあげた志村氏・秀良子氏の描く“傍観者”タイプの目線だ。

 あえてBLでは排除してきた女子要素。それをモブでもなく、当て馬でもなく女子を登場させたのが、糸井氏の作品だ。「どうせ私なんか」と卑屈な女子にも受け入れられる形で女性キャラが登場している。わずか34ページのなかに、スリリングな展開とみごとなオチが用意され、作品世界に引き込まれる。

敵でもあり憧れ、女子の心理を突く

 アブノーマルな関係を描いた作品としては、市川けい氏の「ナチュラチュラリィ」と、プルちょめ氏の「おりぼんちゃんと男の子」はそれぞれ個性が光る。双子を登場させる市川氏の作品は、双子という神秘的で他者が入り込めない密接な関係性が秀逸だ。一心同体で育った双子が向かえた思春期と自我の芽生え。双子フェチにはたまらない。

 ちょっと頭のゆるい女の子を登場させたのは、プルちょめ氏。典型的なビッチな姿は、ある意味、性に潔癖で、けれど性的なものから目が離せない腐女子の投影のようでもある。奔放に性に溺れるリア充な姿は、腐女子の敵でもあるがある種の憧れでもある。このような極端なキャラの登場は、『女子BL』ならではだ。

 その他にも、力強いキャラクターに勢いのあるストーリー展開が特筆の、はらだ氏。今作「わたしたちはバイプレイヤー」でも、その豪腕は健在だ。本書の最後に掲載されており、とても皮肉の効いた作品となっている。『女子BL』という、矛盾したタイトルへの返答にもなっている。異色のBLアンソロジーは、BLの倒錯的構造に想像を巡らせるのも楽しい。

文=武藤徉子