抑えきれない“嫉妬” ―その感情を処理する7つの方法

人間関係

更新日:2016/2/4


『嫉妬をとめられない人』(片田珠美/小学館)

 嫉妬は辛い。このダ・ヴィンチニュースでもほかの記事がうまく書けているのを見ると妬ましくたまらない。そして、自分の書いたものはまったく面白みのない駄作に思えて、しばらく立ち直れず。おかげでしょっちゅう原稿の締め切りを過ぎてしまう(編集者様、ごめんなさい)。自分をがんじがらめにするこの感情から逃れられたら、どんなにもっとスムーズに仕事ができるだろう。

 嫉妬の感情が暴走すると、大きな事件に発展することもあるようだ。先日、小保方晴子氏の博士号が取り消された。早稲田大学は研究指導、学位審査過程に欠陥があったことを認め、異例ながら1年間の猶予期間を設けたものの、十分に修正された博士論文が提出されなかったという。理化学研究所の優秀な研究者がバックアップし、世界の中でも権威のある科学雑誌『ネイチャー』に論文が掲載されたSTAP細胞。なぜ、そのずさんな研究の実態に周囲は気づかなかったのか。精神科医・片田珠美氏は著書『嫉妬をとめられない人』(片田珠美/小学館)において、この事件の側面のひとつとして嫉妬の感情があったとする。

 小保方氏の研究に深く関わっていた、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長の笹井芳樹氏。笹井氏は京都大学医学部を主席で卒業し、その後も華々しい経歴を重ね、世界で初めてES細胞から網膜組織を発生させることに成功。ノーベル賞候補として世界から注目されていた。ところが、手術がうまくできず「ジャマナカ」と呼ばれ、紆余曲折を経て研究の世界に身を投じた山中伸弥氏が、先んじてノーベル賞を獲ってしまった。「笹井氏はiPS細胞の山中氏を意識しすぎるあまり、小保方氏の研究に入れ込み、目が曇ってしまったのではないか」と片田氏は推論する。

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 片田氏は嫉妬が生じやすい状況として4つの条件をあげる。

(1)自分の立場を脅かしかねない者に嫉妬を抱きやすい
(2)閉鎖的な人間関係で起こりやすい
(3)きょうだいや夫婦など身近な者に対して、より激しくなる
(4)自分の同性の者に対して、嫉妬が起こりやすい

 笹井氏の場合は(1)にあたるだろう。再生医療の世界でトップを走っていた彼だけに、山中氏の存在は放っておけず許しがたいものだったに違いない。さらに、笹井氏と山中氏は学年が違うものの同じ年の生まれ。片田氏は「同い年というのは一般的には、互いに意識しやすい関係」とする。嫉妬するに足る十分な条件が重なってしまったのだ。

 では、嫉妬の感情が芽生えたときどうすればいいのか。片田氏が7つの方法を提案している。

(1)嫉妬している自分を受け入れる
(2)ひとつの価値観に縛られない
(3)「正当な努力」をしてみる
(4)嫉妬する場所から離れる
(5)自分と他人を比べるのをやめる
(6)多様なつながりを持つ
(7)自分のテリトリーの限界を見極める

 片田氏は落語家・立川談春のエッセイ『赤めだか』(立川談春/扶桑社)から、嫉妬に対処する具体例をあげる。今ではチケットがでれば即日完売してしまうという談春だが、弟弟子の立川志らくに激しく嫉妬していたことがあるらしい。志らくは生意気な上に師匠である立川談志にいたく気に入られていたからだ。しまいには、談春は談志から「志らくに落語を教われ」と言われてしまう。普通なら「やってられるか」と捨て鉢な気持ちになってしまうはずだ。私だったら迷わず師匠の元を去るだろう。ところが、談春は逆に志らくと仲良くなろうとする。志らくの長所と短所を探し、自分に足りないものを考えるために。

 談春は(1)嫉妬している自分を受け入れて、(5)自分と志らくを比べるのをやめたわけだ。さらに、転んでもタダでは起きず相手からその技術を学ぼうと試みている。やっぱり一流になる人はやることが違う。嫌な思いをすることを全力で避けようとする私とは大違いだ。さらに、そんな談春の行動を見て談志が放った言葉がすごい。

「本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。(中略)現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」

 そう、実は嫉妬して放棄した方がずっと楽なのだ。湧き出てくる感情に抗わず、先を考えず、負のスパイラルに身を任せて「どうせ私なんか」と自分に酔っている方が。つまり私は馬鹿である。嫉妬の感情に甘えることなく、頭で考えて行動を起こす勇気と根性を持ちたいものだ。

 ちなみに、今年の年末、12月28日に二宮和也とビートたけしの共演で『赤めだか』がドラマ化するらしい。自分を鼓舞するためにもぜひ観たい。

文=林らいみ