各メディアやネットで話題! “他人の日常”と出会うちょっと不思議なアートプロジェクトが書籍化

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


 日本テレビ「NEWS ZERO」で特集が組まれるや、各メディアやネットで話題を呼んだアートプロジェクト『赤崎水曜日郵便局』が、2016年1月27日(水)に書籍となって登場する。日本中から海の上の郵便局に届いた、1週間の真ん中にあたる「水曜日のできごと」をつづった手紙、約6,000通を纏めた同書は、“現代の万葉集”ともいえる一冊かもしれない。

 水俣病の被害地域ということもあり、芸術文化による地域再生を積極的に行う熊本県津奈木(つなぎ)町。2013年6月、人口5,000人ほどのこの小さな町にある“海の上の小学校(旧赤崎小)”に郵便受けを設け、手紙の交流拠点とする住民参加型プロジェクトとして始まったのが「赤崎水曜郵便局」。全国から無作為に水曜日の出来事を書いた手紙を郵便局に送ってもらい、別の参加者に転送するというプロジェクトだ。

 手紙の内容には、仕事や子育て、恋愛相談など、ごく日常的かつ劇的な出来事がつづられており、手紙の交換を通じ、人と人を繋ぐことを目的とされている。そうした手紙を纏めたのが『赤崎水曜日郵便局』となるが、具体的にどういったことが手紙に書かれているか、同書の中から一編を紹介しよう。

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10月2日(水)今日は、7:50に出社した。定時出社時刻は8:45。元々、低血圧の私にとっては、ちょっとキツいのだが… ここ1カ月程、朝早くに出しているようにしている。
というのも、朝早く来ているのには理由がある。(あった)。私はメーカー勤め。工場併設なので、朝は資材の納入トラックが沢山出入りする。先月まで、その中の1台を、弟が運転していた。朝7:00頃、弟はトラックを運転し、運んできた資材を、フォークリフトを使って工場に運び入れ、7:30には出ていく。そのことを、つい1カ月前に知った私は、弟に会うために、朝7:15頃には会社に行こうと決めた。入社6年目。今までいつも定時ギリギリ(むしろ遅れで)出社していたので、早起きするのは初めは大変だった。でもそれ以上に、会社に行って、家族(弟)に会えることが、嬉しかった。なんとなく気恥ずかしさはあるけれど、働く弟の姿は、どこか誇らしく、頼もしくもあった。そのうち、“本日のおやつ”と題して、勝手にパンやお菓子を差し入れて、楽しんでいた。もらった弟もまんざらではない様子。9月のある日、担当替えで、弟が来るのは9月いっぱいだとわかった。
弟と会える最後の日、タイミングが合わなかったため、納入を終えて、トラックを運転して出て来る弟に、出社途中の車の中から手を振って終わった。この日、用意していた“本日のおやつ”は渡せず… 少し残念。今日は10月2日。もう弟のトラックは来ないけれど、せっかく朝早く出社する習慣がついたので、続けていくことにした。フォークリフトを見ると、今日も別の場所で一所懸命働く弟の姿が思い浮かび、“よし! 今日も頑張ろう!”という気持ちになる。この気持ちを忘れないように、10月2日水曜日の手紙に記す。加藤 28歳 静岡県

 上記のような、知らない誰かの水曜日の物語が流れ着き、知らない誰かの元へ旅立つ手紙、約6,000通が編まれた『赤崎水曜日郵便局』。人と人が繋がっていく、不思議さや神秘性を感じずにはいられない。

■『赤崎水曜日郵便局
編著:楠本智郎(つなぎ美術館)
価格:1,200円(+税)
発売日:2016年1月27日(水)
発行:KADOKAWA
⇒「赤崎水曜日郵便局」公式サイト

編著:楠本智郎(つなぎ美術館主幹・学芸員)
1966年福岡県生まれ。大阪芸術大学芸術学部芸術計画学科卒業。鹿児島大学大学院人文科学研究科修士課程修了。2001年から現職。社会教育事業としてのアートプロジェクトを考案し、アーティストと住民が年間を通じて地域資源を活用しながら表現活動に取り組む「住民参画型アートプロジェクト」を2008年から実施している。近年は複数のプロジェクトを同時に運営しながら地域密着型アートプロジェクトの功罪を踏まえた上で、都市部から離れた地域におけるアートの可能性を探っている。熊本県津奈木町が運営するつなぎ美術館唯一の学芸員。「赤崎水曜日郵便局」プロデューサー兼管理人。