河村隆一やAAAら人気アーティスト12人の知られざる下積み時代に見る「一流になる方法」とは?

音楽

公開日:2016/5/16


『ユメ、キボウ、ミライ ‐ブレイク前夜物語』(CD&DLでーた編集部/KADOKAWA エンターブレイン)

「歌手になりたいとか、女優になりたいとか、夢を語ると『あまちゃん』じゃないけど、『何言ってるの?あなたがなれるわけないじゃない』って言われて、幼い夢がつぶされていく」

 河村隆一は、若者が夢を見づらい時代を思いこう話す。

 華やかな芸能界。きらびやかな衣装を身にまとい歌って踊って、人々から大きな歓声を浴びる――。自分もそのステージに立ってみたいと一度は夢見た人も少なくないだろう。でも、世間に名を知られるほど活躍する人はほんのひと握り。ほとんどが夢は夢と最初から諦めるか、挑戦しても花開かず去っていくか。そんななか、才能に恵まれ努力が報われ一流と呼ばれるアーティストに成長した人々がいる。『ユメ、キボウ、ミライ ‐ブレイク前夜物語』(CD&DLでーた編集部/KADOKAWA エンターブレイン)は、人気アーティスト12人を取材。下積み時代の知られざる苦労や胸の内を告白する、ファンには垂涎ものの1冊だ。

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下積み時代は家もなかった!“神亭主”(!?)河村隆一

 さて、冒頭の河村隆一は、言わずと知れた90年代を代表するヴィジュアル系ロックバンド・LUNA SEAのボーカル。最近、2002年ミス日本グランプリの妻、佐野公美が数々のバラエティ番組で私生活を暴露し、夫の暴君…いや、夫人曰く“神亭主”ぶりが話題になっている。「友人や家族との連絡を絶たされる」「口から細菌が移ると仕事に支障が出るからとキスもさせてくれない」などなど、次々と明かされる事実に河村の人柄を疑った人もいるかもしれない。が、本書を読む限り、彼は決して変人でサディストなわけではない。ただひたすら自身の思いに忠実でストイックなのだ。

 高校に入る頃にはすでに「歌で一番になる」と考えていた彼は2年生で中退。実家を飛び出し、東京へ出た。アパートを借りるお金がないから、バイトをしながら友達の家を転々とする日々。塗装屋や工事現場、さらにはアイスの仕分け工場で肉体労働を続け、稼いだ金はバンドの運営費に消えていく。努力が実りバンドのライブ動員数が増えると、今度はバイトのシフトに入れずどんどんクビに。踏んだり蹴ったりの生活を送っていたようだ。だが、ライブは命をかけて無我夢中でやったという。そうしてファンを確実に増やしていき、1992年ついにメジャーデビューを果たす。

 その後の快進撃を知っているからこそ、それでも夢を追う日々は楽しかっただろうなどと安易に思ってしまう。が、高校を辞めるときには先生に「オマエみたいに言って辞めていったヤツはたくさんいるけど、成功したヤツは一人もいない」、ライブハウスの店長には「オマエらの音楽は何がやりたいのか、わからないんだよ」などと厳しい言葉を投げつけられてきたらしい。しかし、そのたびに「見返してやる」と考え、寝る間も惜しんで自分たちがやるべきことを追求し、血ヘドを吐くほど練習を重ねたそうだ。そんな彼の半生を知ると、やはりなるべくしてなったカリスマアーティストだと納得させられる。

優等生・宇野実彩子(AAA)が感じた無力感

 一方、まったく異なるアーティスト人生を歩んできたのが、今をときめくパフォーマンスグループ・AAAの宇野実彩子だ。彼女の場合、軽い気持ちで受けたエイベックスのオーディションに受かり、AAAという新たなユニットに加入し、デビューを果たしている。芸能人を志す人なら「そんなに簡単なのか!?」と言いたくなるほど、とんとん拍子だ。もちろん、彼女の才能やそのときの運もあったかもしれない。だが、負けず嫌いで優等生だった彼女はその後苦しむことになる。周囲のレッスン生の夢を追いかけるエネルギーに圧倒され劣等感を覚え、路上に出て人前で踊らされる「ストリートライブ」では華やかな芸能界とのギャップを感じ、精神的な辛さを味わう。ぬくぬくと育てられてきた彼女が「私がやっていることは仕事なんだ」と気づいたのは2年目のツアーのとき。初めて客観的に自分を見るようになり、自分にできないことが浮き彫りになって、無力さに打ちのめされたという。それから長いトンネルのような期間だったと彼女は振り返る。

 テレビや雑誌、ネットで日常的に見る芸能人がいる一方で、同じステージに上がるべく日々勉強し、稽古に励み、オーディションに明け暮れる人々がどれだけ多くいるだろう。そんななかで、一流になるには“諦めないこと”なんて安易に言ってはいけない気がする。でも、どうせやるなら自分の納得がいくまでとことんやってみたい。

 河村隆一は当時売れるためにチラシをまいて、ライブに来てもらうように宣伝したらしい。しかし、現在はネットを通じてプロもアマチュアも関係なく誰もが発信できる。全員にチャンスがある時代だと語っている。確かにより門戸が開かれた今、それを逃さない手はない。血ヘドを吐きながら、苦しみながらやったことに無駄はないはず。その先に夢見た世界が待っているかもしれないし、少し違っていたとしても間違いなく明るい未来が待っていると信じたい。

文=林らいみ