文芸・カルチャー

阿部寛×天海祐希出演で実写化! ”大事な人々と食卓を囲むこと”の意味を教えてくれる重松清の『ファミレス』

 “幸せな家庭”“家族の幸せ”――そんな言葉に多くの人が思い浮かべる光景は、やっぱり家族みんなが笑顔で食卓を囲んでいるところではないだろうか。『恋妻家宮本』のタイトルで実写映画も化される重松清の小説『ファミレス』(KADOKAWA)は、食事を作って食べることを通して、家族のつながり、人生の幸せの本質を描き出そうとする長編作品だ。

 中学教師の宮本陽平は、今年49歳。2人の子供が家を巣立ち、同じ歳の妻・美代子とはいわゆる“できちゃった婚”だったので、銀婚式を間近に控えて、初めての2人暮らしが始まった。そこはかとない照れくささとぎこちなさを感じつつ、夫婦ふたりきりのこれからに思いを馳せて心浮き立つものを感じていた陽平。ところが、美代子が愛読しているアン・タイラーの小説に封筒が挟まれているのを見つけて、そんな気分は吹き飛んでしまう。封筒の中身は、美代子の署名が入った離婚届だったのだ。

 陽平の唯一の趣味は料理。その料理を通して友人となった雑誌編集長・竹内一博と惣菜屋の小川康文もまた、家族の関係については順風満帆とはいえなかった。バツイチの康文は17歳年下で連れ子のいる麻里と再婚したものの、前妻との離婚の原因になった母との関係悪化を恐れて移動屋台をスタート。嫁姑が一緒にいる時間を少しでも短くするためである。一博は妻の桜子と子供を持たないという選択をし、自他ともに認める“成熟したおとなの夫婦”だったが、桜子が母の介護で故郷の京都に帰郷してからは長く別居状態。そんなところに自分の雑誌に登場させようと考えていた料理講師・北白川エリカが、妊娠中の娘・ひなたともども家に押しかけてきて奇妙な同棲生活が始まってしまう。

 「不惑」の40歳をとうに過ぎ、天命を知るという「知名」の50歳。そんな人生の折り返し地点を迎えた中年オヤジ3人組に待ち受けていた思いもよらぬ人生の転機とは――!?

 中年オヤジの気取った見栄や寂しい本音、空回りをドタバタのコメディタッチで描きつつ、浮かび上がってくるのは「人はなぜ料理をして、なぜ人と一緒に食べるのか」という人の営みの根源的なテーマ。普段から日常的に料理をしている人なら「あ、これ試してみよう」と思わせられる美味しそうな料理が次々と登場し、その丁寧な描写と料理を作る人のリアルな心情からも著者・重松清が「ごはんを作って、人と一緒に食べること」をとても大事にしていることが伝わってくる。

「人生とは、腹が減ることとメシを食うことの繰り返しなんだ」とは、作中の陽平の言葉だが、繰り返しだからこそ、日々の食事について大げさにとらえるようなことは普段あまりない。しかし、そんな日常の暮らしも、ふとしたきっかけですぐに変わってしまう。当たり前にあったはずのものが、二度と取り戻せないものになってしまうことも、人生にはしばしば起こる。だからこそ、いつも当たり前に食べている“ごはん”を大事にして、できるだけ楽しみながら、美味しく味わっていきたいと思わせられる。そして、人が生きていくうえで支えになるものも、きっとそんな些細なことの積み重ねでできている。普段何気なく家族と一緒に食べているごはん、あるいはかつて家族と一緒に食べていたごはん――その一食一食が実はとても大事なものだということに気づかせてくれる、優しさに満ちた物語だ。

文=橋富政彦



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