命にランク付け? 前代未聞のパニック・サスペンス

更新日:2014/12/25

少年Y

ハード : 発売元 : 秋田書店
ジャンル: 購入元:KindleStore
著者名:とうじたつや、ハジメ 価格:※ストアでご確認ください

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 所得格差、世代間格差、教育格差など、拡大する格差社会が問題視されています。社会の縮図といわれる学校でも同じ。クラス内ではイケてる層、フツー層、おとなしめ層、そしてぼっち層と、昔に比べてよりはっきりと住み分けがなされ、スクールカーストが形成されてしまっているという見方があります。厳格なカーストピラミッド下では、ぼっち層が上位層に入ることは非常に難しい。このスクールカーストは、近年、いくつかのコミックや小説などで取り上げられているので、ご存知の方が少なくないと思います。

 本作はスクールカーストの底辺で苦しんだトラウマがある中2の少年・ユズル。といっても、この少年、「友達ができないのは怖くない。友達ができない人だと思われることが怖い」という、独自のロジックをもっています。いわく、才能があるぼっちは孤高、しかし普通の奴は孤高を気取れない。中2だけに病持ちだといえるのかもしれません(失礼)。

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 さて、ユズルは転校初日の難関に挑みます。担任による転校生紹介。ここで自己紹介を失敗すれば「友達ができない人」と見下される恐れが高まります。緊張しつつ担任に呼ばれるのを廊下で待つユズル。あれこれと策に悩み、自己嫌悪に陥る。そんな自分に対し、ふと面倒くさく思い、思わずある一言をつぶやきます。やがて、教室の扉を開けると、そこには担任とクラスメイト全員の死体、死体、死体。突然に神から権能を得たユズルが、誰を生き返らせて誰を生き返らせないか、初対面の人間たち(死体)の前で、究極の選択を迫られます。自分の優位性を確保するための頭脳パズルであり、利己トリアージ。突如、スクールカーストの頂点に君臨することになったユズルは激しく動揺します。

 痛々しい内容と弱気で自意識過剰、利己的なユズルの考え方に少々エグみがあり、読む人を選ぶともいえそうです。一方で、そんなユズルが倫理観との間で揺れる姿に共感する読者もいそう。ゲーム感覚で命のランク付けがなされる過程は、とてもスリリング。不快なのにカタルシスがあり、スイスイと読んでしまう。そんな経験ができる一冊です。


常に思い悩むユズル。分析家? デリケート? 気弱? それとも中二病?

初日の教室に向かう。耐えられない緊張感

教室には死体が転がり、天井からは魂がぶら下がる

ナゾの少女が突如、難問を出題する