国民よ。国を守るのは国民自身であるのだよ

更新日:2011/9/12

民間防衛

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 原書房
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:eBookJapan
著者名:スイス政府訳 価格:1,028円

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私が携わったゲームの設定では、主人公の国は徴兵制、民間義勇兵を採用していた。そのため徴兵制、義勇兵など民間の防衛体制には以前から興味があり、この本を手に取ったしだいである。
  
編者は永世中立国スイス政府。この本はスイス政府が国土防衛について、スイス国民に語りかける形式で記したものである。

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第二次世界大戦の経験によって、スイスは特定の強国、連合した交戦国のグループに、完全に包囲されてしまう可能性があることがわかったのである。包囲された場合、一体誰が、国土を助けてくれるのか? スイス政府はあらゆる事態を想定し、準備せざるを得ず、頼りにできるのは、国民自身でしかないと考えているのだ。
  
本文では、想定される交戦国の侵略方法から、国土が占領下になった場合の国民の対処法まで書いてあるわけだが、その徹底ぶりがすごい。
  
例えば、占領下に置かれた場合。国民はレジスタンスを組織し、抵抗するべきだという。まずレジスタンスは地下で活動、それをしだいに活発化させ、解放の日まで継続すべしという。政府がここまで国民に示しているのである。
  
また民間防衛の本隊となる自警団の設立要綱も詳細に記されている。自警団は、住宅自警団と職場自警団から成り立ち、住宅自警団は住民60名から80名ごとに組織。団長1名、退避所責任者1名、看護衛生責任者1名は必須。職場自警団の場合は、行政機関、100名以上の従業員のいる職場、50台以上のベッドを持つ病院に設置されるべきなど、とにかく細かい。自警団の装備、生活補償、訓練の方法から、工事班、保全班、衛生班、核兵器化学兵器対策班、被災者救護班などの組織体系。果ては避難所の装備、医療衛生用品の種類、2週間分の必要物資の項目だけでなく、長期の場合を想定して、2ヶ月分の必要物資まで記載されてある。これはもう政府が作った「暮しの手帖」ならぬ「国土防衛の手帖」と言ってよいだろう。
  
だが裏を返せば、この国の政治指針が顕著に示されているともいえる。確かに戦争研究をしなければ、本当の平和主義者にはなれない。スイスは、真の平和をこの本で国民に示しているのである。

序文にスイス連邦法務警察長官の署名がある。これはスイスの国家意思なのだ

地味ながらも挿絵も入っている

「蜂蜜はいつも流れているわけではない」。確かに恒久的平和を否定している発想だ (C)スイス政府/原書房