ホームズ卿の先輩! 世界最初の名探偵にして、世界一親切な名探偵
更新日:2012/5/21
奇怪で面妖な事件が起き、そして、それを天才的な人物が奇想天外な着想で解決していく―――。
今で言う推理小説とは、大抵の所、まぁそんな風に相場が決まっているものです。
一種の空想犯罪資料と言ってもいいかもしれませんね。
しかし、元来、推理小説とは、“脳髄のスポオツ”であります。読み物ではありますが、淡々と追体験するだけではなくて、能動的に推理してこそが本懐なのです。本作は世界最初の推理小説であるとともに、正に思考や分析の導火線へ、種火を投下するような作品でした。
収録される作品は…
●モルグ街殺人事件
●マリー・ロジェー事件の謎
●盗まれた手紙
…以上3編。どれも、名探偵オーギュスト・デュパンを主人公とした作品です。
奇抜な殺人事件、一般的な殺人事件、日常の事件、とたったの3編ながらも多様なケースでの能動的推理を楽しむことができます。なぜ能動的かというと、登場するデュパンがなんとも“親切な名探偵”だからなのです。
聞き手としての“わたし”と言うキャラは無味無臭な男で、劇中はほとんど口を挟みません。ほとんど視点として存在しているだけのようなヤツです。デュパンはそんなわたしに、推理と論説を披露してくれます。それが、ただ事件の真相をズバッ! と解決するだけでなくて、まず全ての手がかりを述べた上で、矛盾点の指摘、それらの分析の手順、論理学的な構築の仕方、反証の解説と、あくまでわたしが結論にたどり着くような手引きの講義をしてくれます。推理の手引きのためであれば、意図的に真相を言わないことすらあるという始末。
実に読者思いの名探偵ではありませんか!
名探偵の超絶ぶりに阿呆みたいに感心するだけという話ではなく、しっかりとその手ほどきを示し、我々を見事にゲームの当事者へ引きこんでいくデュパン。
彼は言うでしょう。
「観客でいるよりも、プレイヤーになるのが一番おもしろいに決まっているだろ」と。
冒頭で1番しゃべる“わたし”
デュパンはあくまでも、助言するだけ
教授の講義のはじまりだよー!