シングルマザーが性風俗を選択し、やめられない理由とは? 深刻な貧困の連鎖は解決できるか?

社会

公開日:2020/1/18

『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』(坂爪真吾/集英社)

“地方都市における風俗は、DVや離婚によって夫という経済的支えを失った女性に対して、住まいと生活を一気に安定させるだけの高収入の仕事を提供できる、ほぼ唯一の社会資源だ。”

 昨年、東京都と神奈川県ではじめて最低賃金が1000円を上回った。だが、他の地方はまだその水準に追い付いていない。しかも、たとえ時給が1000円になったとして、1日8時間、毎月20日働いた際の年収は約192万円。こうした状況において、夫という支えがなく、企業が正社員に求める学歴・職歴のない「シングルマザー」たちは、高収入が見込める「性風俗」の世界へと足を踏み入れざるをえなくなるという。

 本書『性風俗シングルマザー 地方都市における女性と子どもの貧困』(坂爪真吾/集英社)は、地方都市で貧困に苦しむシングルマザーたちの“リアル”に迫るルポルタージュ。単なる記録にとどまらず、最新の統計や行政への取材をもとに、その解決策を提案する1冊だ。まずは、典型的なシングルマザーの現状を本書から紹介したい。

■デリヘルのおかげで生活と精神状態が安定

 本書に登場するシングルマザーの由香子さん(仮名)は、関係が冷え切っていた彼氏との妊娠が発覚したことをきっかけに、シングルマザーになった。男性は出産に反対したものの、彼女は、養育費や認知を要求しないことを条件に出産を決意。産後は時給1000円で農作業の仕事をしていたが、子どもが3歳になっても生活費はカツカツのままだった。常に何かの支払いに追われ、頼れる人がいなかった彼女は、経済的にも精神的にも苦しくなっていく。

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 そんなとき、以前在籍していたデリヘルのスタッフからLINEが届き、仕事を再開することに。日に2~3万稼げるデリヘルの給料は、由香子さんの生活を安定させ、精神的にも余裕が生まれたそうだ。

■性風俗で生きる彼女たちに、「次」の道はあるのか?

 性風俗は、こういった形で確実にシングルマザーたちのセーフティネットになっている。だが、そこから「出口」を見つけることはむずかしい。風俗の仕事は、いつまでも稼げるものではないし、昼働く給料を上げるキャリアにもなりにくい。それでも、彼女たちは、目の前の家賃や子どもの養育費を支払うために、さまざまなものを犠牲にしながら働いているのだ。

 著者は、彼女たちを支える術となるいくつかの制度やシステムをあげている。たとえば、「生活保護」がそのひとつ。本書で取材に答えるS市の職員は、生活に苦しむシングルマザーが窓口を訪れた際には、なるべく生活保護をすすめるようにしているという。だが、S市のひとり親世帯のうち、生活保護の受給世帯は1割ほどに留まるのが現状。同市職員によれば、その原因は、彼女たちが制度をよく知らずに、「生活保護=悪」だと思い込んでいることにあるようだ。S市の場合は、子どもが2人いるシングルマザーは月20万円ほどの生活保護を受け取ることができる。

 生活保護のほかにも、シングルマザーを助けるための制度や窓口はある。だが、今のところ、それらが当事者たちに届いているわけではない。著者によれば、行政が用意する制度は、往々にして受け身になってしまいがちであり、情報発信も一方通行のままなのかもしれない。問題の解決に必要なのは、彼女たちが「支援を受けてもいいんだ」と思えるコミュニケーションなのではないだろうか。こうした社会福祉制度の問題は、シングルマザーだけに限らない。本書を読めばそれが他人事でないときっとわかるはずだ。

文=中川凌