ペシミスティックな四行詩のつらなりは、思いがけない安逸をもたらしてくれる

小説・エッセイ

公開日:2012/6/14

ルバイヤート

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : グーテンベルク21
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:オマル・ハイヤーム 価格:324円

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クラシック音楽をよく聞く。CDもずいぶんたくさんもっている。朝仕事を始める前に、マルタ・アルゲリッチの「子供の情景」を聞くのはもう20年来の習慣だ。

ところが、西洋のクラシック界でいちばん好きな作曲家はシューマンではない。ベートーベンでも、ワーグナーでも、バッハでもない。もちろんいつぞやなんかの小説の余波で大流行したヤナーチェクであるはずがない。

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グリーグだ。ノルウェイの人。ボロディン、リムスキー=コルサコフなんかといっしょに「国民楽派」なんつってまとめられちゃう作家だ。体があまり丈夫でなかった人らしく、大きな曲、つまり交響曲はひとつも作っていない。いちばんの大曲が「ピアノ協奏曲 イ短調」。これも素晴らしい曲なのだけれど、なんていうか、シミジミと美しいのが「抒情小曲集」と題された一連のピアノ曲だ。演奏時間が1分から3分くらいの可愛い曲たち。「過ぎし春」なんて、絶え入りそうな曲想で、いかにも私の青春ははかなく消え、静けさの中にポツリポツリとピアノの音が落ちていく。

でもって、ある意味「抒情小曲集」は、みな「暗い」のだ。「ピアノ協奏曲」も、ノルウェイの暗鬱な海に打ち寄せる荒い波に思い雲がかぶさるような、そんな「暗さ」が流れている。

そこでわたしはいつも思う。「美しいものは「暗い」のではないか。明るく華やかな曲は、励まされ、鼓舞されるけど美しいと思ったことはない。これは絵画も同じだ。

そして稿も思う、私たちを慰撫するのは元気で愉快なものではない。「哀し」く「うつむいた」ものだ。

1040年頃ペルシアに生まれたオマル・ハイヤームの四行詩集「ルバイヤート」は、彼の死後発見され、世界中に翻訳された。その歌は限りなく厭世的で、人の命のはかなさを嘆き、酒による懊悩の忘却をうたう。

しかしこれらの歌の底を通るものに、読むものを慰藉する。哀しい気持ちを抱えた人には、哀しい歌だけが寄り添ってくれるのだ。


できるだけゆっくり読もう。速読厳禁