「生産性のない人間は無価値」自己否定の“沼”にハマった漫画家志望が耳かき専門店で働いた結果【漫画家インタビュー】
公開日:2025/1/16
人間関係や仕事などで失敗してしまった時、自己嫌悪に陥ってしまったことがあるという人は多いはず。そしてそこから立ち直ることができず、“沼”にはまるように自己否定から抜け出せなくなってしまう人もいるのではないだろうか。漫画家の森民つかささんも、かつてちょっとしたことで深く落ち込み、無気力になってしまっていたという。

そんな森民さんが、なぜ自分が自己否定の“沼”にハマってしまっているのかを見つめ直した漫画が『耳かき専門店で働いて自己否定“沼”から抜け出す話』だ。本作は森民さんが実際に耳かき専門店で働いていた時の経験を元に描かれたセミフィクション作品。どのように作品が生まれ、彼女の自己否定がどこからやってきたのか。森民さんに話を聞いた。
Xでの反響から連載がスタート
本作はX(旧Twitter)で投稿された『耳かき専門店で働いてみたハナシ』がきっかけで、2023年11月から改めて連載としてスタートした。
「5年前に名古屋から上京して、ある出版社に作品を持ち込んだところ、担当編集さんがついてくださることになりました。ただそこから作品を発表するところには至らなくって……。プロット(物語の設計図)やネーム(コマ割りをした下書きの前段階)でボツになってしまうことが続いていました。『耳かき専門店で働いてみたハナシ』もボツになった作品です。ずっとボツが続いていたのでその先の工程に進めず、“作品を完成させる”ということができなかったので、とりあえず1作品完成させたいという思いがあって、個人の創作活動として第1話を描いてSNSにアップしました」
第1話を完成させたのが2021年12月。「出し切るような気持ち」で描いたところ、耳かき専門店で働いていた経験のある人を中心に多くの反応が得られたという。
「『描いてくれてありがとう』というポジティブなメッセージをたくさんいただきました。第2話を描いたのは2023年3月ころ。当時、創作活動をどうしていけばいいのかわからなくなってしまっていたんです。ただ、担当さんから『とにかく手を止めないで描き続けて』と言われていたこともあって、今の私にできるのは『耳かき専門店で働いてみたハナシ』の続きを描くことだと思って、第2話を描きました」
そして、第2話での反響を受けて、連載の打診がきたという。
「連載をするにあたって、この漫画で一番私が描きたいことは何かということを現在の担当さんと話をする機会がありました。創作活動がうまくいかなかったり、過去のバイトや耳かき店の仕事でうまくいかなかったりした時に『自分って生きている価値がないかも』ってくらいまで自己否定しちゃってどん底までメンタルが落ちてしまうというのがあったんですね。それって私だけなのかなってずっと思っていたんですが、耳かき店で働き始めて色々なお客様の話を聞くようになったら『あれ?同じようなことで悩んでいる方が割といらっしゃる』と知って、落ち込んでしまうのは自分だけではない、だったらもうちょっと頑張れるかも……と思うようになったんです。耳かき店で働くことで、さまざまな気づきを得られました。なので、そのことを描きたい、という話を担当さんにしたところ『自分はそこまで自己否定することない』という反応だったんですね。『なぜ森民さんはそこまで自分を責めてしまうでしょうか?失敗しても次頑張ろう、失敗で得たもので変えていければちょっとずつでも上達するじゃないですか』と合理的なことを言われて。『担当さんの自己肯定感、めっちゃ高い!』って衝撃的だったんです(笑)」
同じ失敗をしても、立ち直って次に向けて考えられる人もいれば、「消えたい…」とまで思い詰めてしまう人もいる。この差を考えた時に森民さんが行き着いたのが“生い立ち”という要素だったそう。

「以前から心理学とか、家庭内で弱い立場にある人に対して身体的または精神的ダメージを与える機会が日常的に存在している“機能不全家族”の話をインプットしていたので、自己否定の沼にはまってしまうかどうかは生い立ちに原因があることが多いということは知識としてありました。機能不全家族の中で育つとちょっとしたことで打ちのめされてしまう。世の中で自分が役に立てているかどうかで自分の生きている価値を見出そうとしてしまう。私自身がそうだと自覚していたころだったんです。担当さんにこの話をしたら、それを漫画にしましょうって言ってもらって。それで描いたのが第7話、第8話のエピソードです」