島﨑信長が選んだ1冊は?「設定は未来的なのに、内容は普遍的。人間の本質を描いた大好きな一冊」

あの人と本の話 and more

更新日:2025/3/14

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年2月号からの転載です。

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、島﨑信長さん。

(取材・文=倉田モトキ 写真=干川 修)

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「普段、小説を読まない人にオススメを聞かれたら、星新一さんのショートショートを挙げる人って多いと思うんです。一つの物語が短いからすぐ読めるし、ユーモアもある。それに何がすごいって、初版から50年以上経つのに、“誰もが楽しめる”というふれこみが今も通じるところ。こんな作品、ほかにないです」

 言わずと知れた星新一の名著『ボッコちゃん』。何度読み返しても色褪せないという本書を手に、「どの登場人物たちの描き方にも滑稽さがあり、そこにも惹かれます」と話す。

「オチを含め、落語っぽいところも好きなんです。因果応報のような教訓もあり、大人になった今読むと素直に笑えなかったりもする(笑)。けど、そのブラックさもクセになる」

 特に島﨑さんの心を動かしたのは、“違和感のない”SF的な要素だ。

「宇宙人やロボット、悪魔とかが急に出てきても、なぜかすんなり物語に入っていけるんです。それに“こんなことがあったらいいなぁ”っていう夢みたいな世界が描かれているのに、相対する人間たちの思考は稚拙だったり、アナログ的で。設定は未来的なのに、内容はとても普遍的。人間の本質って50年経っても変わらないんだなと感じさせられました」

 まもなく放送がスタートするアニメ『SAKAMOTO DAYS』。引退した伝説の殺し屋・坂本太郎を主人公にしたこの作品も、「設定は非日常的なのに、そこにまったく違和感がない」と島﨑さん。

「殺し屋がテーマの作品だと、光と闇といったギャップを描いたものが多いのですが、今作ではその両面が地続きになっているんです。坂本は風貌も変わり、平凡な暮らしをしているのに今も底しれぬ強さを持っている。また、彼の命を狙う組織もアウトローなはずなのに妙に社会性があったりして(笑)。どんな突飛な要素を混ぜても破綻しない面白さがあるのが、今作の武器だと思います」

 島﨑さんが演じるのは坂本を崇拝する元部下のシン。他人の心が読める能力を持つも、「彼は天才型ではなく、努力して一流の殺し屋になった。そんな人間臭さも魅力」と語る。

「ふくよかになった坂本を見ても幻滅せず、それどころか家族を大切にしている坂本の姿に憧れ直す。この作品では、そうした“人を見る目”も描かれています。ただただ笑って観終わったあと、しばらくして家族愛や仲間を想う気持ちがフッと心に甦ってくる。そうした余韻が楽しめるのも、今作の素敵なところですね」

ヘアメイク:瓜本美鈴 スタイリング:宇都宮春男 衣装協力:フードジャケット 4万6200円、プルオーバーニット 3万5200円(ともにCULLNI/CULLNI FLAGSHIP STORE TEL03-6416-1056)、シャツ5500円(Casper John/Sian PR TEL03-6662-5525)*すべて税込

しまざき・のぶなが●12月6日生まれ。宮城県出身。2009年、声優デビュー。12年のTVアニメ『あの夏で待ってる』の霧島海人役で初主演を果たす。主な代表作に『フルーツバスケット』(草摩由希役)、『バキ』(範馬刃牙役)、『呪術廻戦』(真人役)、『ブルーロック』(凪 誠士郎役)、『忘却バッテリー』(千早瞬平役)など。

『ボッコちゃん』
星 新一 新潮文庫 737円(税込)
社会風刺や知的なユーモアに溢れ、半世紀以上にわたって愛され続けるショートショートの神様・星新一による珠玉の一冊。殺し屋であるという若い女との出会いを描いた「殺し屋ですのよ」や、人間そっくりなロボットがバーで引き起こす、思わぬ事件とその顛末をシニカルに魅せた表題作など50編を収録。

アニメ『SAKAMOTO DAYS』
原作:鈴木祐斗『SAKAMOTO DAYS』(集英社) 監督:渡辺正樹 シリーズ構成:岸本 卓 出演:杉田智和(坂本太郎)、島﨑信長(朝倉シン)、佐倉綾音(陸少糖)ほか 1月11日(土)よりテレ東系列ほかにて毎週土曜23時から放送開始
●すべての悪党たちが恐れていた殺し屋・坂本。しかしある日、偶然出会った葵に一目惚れした坂本はあっさりと引退。今はのどかに個人商店を営み、愛娘たちと暮らしている。だが、そんな彼の前に日々、刺客たちが襲いかかる……。
(C)鈴木祐斗/集英社・SAKAMOTO DAYS製作委員会