大きな犠牲を払い手に入れた強大な力…元奴隷の少年が過酷な運命に立ち向かい、その先に待っているものは? 今、話題沸騰中のダークファンタジーコミック『ケントゥリア』

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PR 公開日:2025/4/4

ケントゥリア暗森透/集英社

 マンガアプリ「少年ジャンプ+」で連載中のダークファンタジー『ケントゥリア』(暗森透/集英社)は、「次にくるマンガ大賞2024」で上位にランクインし、漫画好き芸人が“沼る”作品を紹介するTV番組でも2024年のランキング2位に選ばれ、今さらに勢いを増している作品だ。異形の怪物も存在するかなりハードモードな世界を舞台に、元奴隷の少年が「異能」と呼ばれる力を手に入れて、過酷な運命に立ち向かっていくというストーリーである。

100人の奴隷の命と力を与えられた少年・ユリアン

 奴隷の少年・ユリアンは、主人のもとから逃げ出し奴隷船(奴隷を商品として売買する船)へ密航を試みる。そこで出会った100人の奴隷たちは、何かと彼を気にかけてくれた。ユリアンが「なぜ自分に優しくするのか」と問うと、身重の女性・ミラは「奴隷でも人としての誇りを忘れずにすむ」と言う。虐げられ、モノのように扱われ、実の母親に売られる、そんな悪意の中で生きてきたユリアン。

 彼が初めて人の善性に触れたこの一連の描写はぐっとくるが、そのすぐ後に奴隷たちは全員、理不尽に命を奪われてしまう。もちろんミラもだ。情緒を激しく揺さぶってくる本作は、明確な人の悪性と善性を交互に叩きつけてくるのだ。過酷な展開で成長していくユリアンと共に、私たちも心が鍛えられていくようだ。

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 そしてユリアンは“海”と名乗る海中から現れた正体不明の怪物に「祝福」を授かり、強大な力・異能を得る。それは死んだ奴隷100人分の筋力、体力、そして命だという。つまり彼は「100回死んでも死なない」体を手に入れたのだ。チート能力を得る物語は数あれど、ユリアンが手に入れたこの力は非常に重いものだ。

 この人智を超えた力を使ったバトルが本作の大きな見どころでもある。ただ、“海”に与えられたユリアン自身の異能は序盤では明確にならない。海中で呼吸が不要になっているような描写はあるが、基本的には100人分、つまり常人の100倍の身体能力を持っていて、それはもちろん死んだ者たちの命から得たものである。

 だからユリアンはその力を安易に使うことはない。例えば彼が辿り着いた村で、自分を住人として認めてもらうために重労働を強いられる。そのときユリアンは自身の力だけで乗り切った。100個の命をもらったこと、そしてミラが海上で命をかけて産んだ娘・ディアナを任された責任を感じているからだ。

 奴隷だった少年が得たのは力だけではなく、自由と善性、そして強い心も手に入れたのである。

家族なのに命を奪い合う、怒涛の第3巻

 ユリアンと赤ん坊のディアナは前述の通り村で認められ、そこで出会った女騎士・アンヴァルと少女・ティティと4人で一緒に暮らし始める。ユリアンとアンヴァルは村人を襲う“森”の怪物たちとの戦いを経て、束の間の安らかな時間を過ごしていた。

 だが、ユリアンが村に来てから1年が過ぎ、安息は破られる。アンヴァルの仕える王宮から預言者・エルストリがやってきて「王が死ぬ原因になるディアナを殺せ」とアンヴァルに告げたのだ。

 最新3巻では、預言に逆らいディアナを守ろうとするユリアンと、アンヴァルの戦いから物語が始まる。

 国家への忠誠心が高く、王の代理者たるエルストリのディアナ抹殺の命に逆らえないアンヴァル。彼女の攻撃をユリアンは一方的に受け続ける。かつて西部戦線で武勲をあげ王にも認められた彼女は確かに強い。だがユリアンの異能をもってすれば簡単に自分を倒せる、そうアンヴァルは思っている。彼女は表情の見えない鎧兜をかぶり「戦え、そして私を殺せ」と心の中で叫んでいた。

“善”でしかないふたり、家族になったふたりがなぜ殺し合わなければならないのか。互いに引くことができない残酷な戦いの結末は。果たしてユリアンはようやく手に入れた家族を守れるのか――。

 そして第3巻では大きな展開がもうひとつある。それが王の息子・アルコスの参戦だ。王は「至高き君(いとたかききみ)」と呼ばれ、思いやりにあふれアンヴァルをはじめとした臣下から敬意を集めていた。だが、この王子は父とは正反対の残忍な性格である。

 このアルコスは王族に代々遺伝で伝わる異能持ちだ。水を操るその力は、王子一人で敵の部隊を殲滅できるほどであった。彼がエルストリに遅れて現れたとき、悲劇の幕が上がる。もちろんユリアンとの異能同士のバトルの行方も興味は尽きない。

『ケントゥリア』は、ダークファンタジーの魅力を存分に味わえる作品だ。考察がはかどる謎の多い展開、不気味な怪物のデザインやハイレベルな画力、迫力あるバトルシーン、強くて魅力的な主人公、そしてさまざまな感情を揺さぶる人間ドラマ……。これらが融合し、読む手を止めることができない。

 壮絶な世界を舞台に人の悪性と善性が交錯する残酷かつ美しいストーリーを、ぜひ体験いただきたい。

文=古林恭

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Ⓒ暗森 透/集英社

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