自炊のコツ/絶望ライン工 独身獄中記㊱
公開日:2025/1/22

知ってるか?晩飯を作る独身男性は3つに分けられる。
旨さを求める奴、節約に生きる奴、レシピを読める奴。
この3つだ。
あいつは──
(晩飯闘争記『自炊のエース』より)
朝起きて茶漬けを食い、弁当持って労役へ向かう。
長屋へ帰ったらまた飯を炊き、漬物や豆腐をおかずに味噌汁をつけ、晩飯にする。
ここ数年、いやもう10年以上変わらぬ我が愛しきオーディナリー・ワールドである。
茶漬けには昆布佃煮とカッパ漬け、それにワサビを乗せるのだ。
昆布の上から湯を注ぐようにすると、だしの香りが広がって大変結構。
カッパ漬けをポリポリと齧りながら、熱々の茶漬けをザブザブと食う。
炊いておいた麦飯をタッパーに詰め、上から海苔だの目玉焼きだのを適当に乗せ醤油を廻しかけた弁当、これもまた結構である。
この「結構」というフレーズはタニシュンが随筆で書いていたやつを気に入って使っている。
タニシュンよ、畏れ多くも貴殿の作品は大変結構である。ミヤケンやナカチュウも好むが、この瞬間さえ世界に向け新しい言葉を投げておられるのが最高にマーベラスである。
結構というのはマーベラスという意味なんだなきっと。
(2024年11月19日追記)
職場のレディオにて訃報を聞く。
これまで楽しい作品をありがとうございます、ご冥福をお祈りいたします。
私はまあ自炊はするほうであると自認する。
もちろんラーメンやソバを食べて帰る日もあるし、すき屋の高菜明太マヨ牛丼が食べたくなる時もある。
あとはコンビニに並ぶカップ麺、あれの妖しい誘惑に四十を超えた今も大いに苦しむ。
それでも家で飯を作るのは、単純にそれが一番旨いし、好きだからです。
炊き立ての麦飯にごま油でカリカリになるまで焼いた目玉焼きを乗せる。
大事なウインナーを2本焼いて、それも飯にのっけちまう。
カッパ漬けや昆布佃煮、マヨネーズをトッピングした絶望目玉焼き丼の完成である。
トロトロの黄身に醤油を廻し、崩して飯と混ぜながら食う。
極上の旨さである。ごま油も香ばしくって実にビューだよ、結構だよ。
パリっとしたウインナーにマヨネーズをつけ、丼を持って熱い飯と一緒くたにかっこむ。
もうたまらねえ。敢えて丼にしているのはこうしないと茶碗に何杯でも食っちまうから。
半分まで飯を片づけたら、刻んだ葱を混ぜた納豆かけて食う、そりゃもう必死に食う。
嗚呼、旨い。幸せだ。
もう何十年とこいつが大好きさ、まったく飽きないぜ──
この目玉焼き丼はレストラン定食屋弁当屋と、どこの店を探してもメニューにないし、コンビニでも売っていない。
食べたければ自分で作るしかないってわけ。
もうそれだけで自炊をする理由になり得るし、実際そうなっている。
懐具合によっては目玉焼きがダブルになったり、ウインナーが増えたり、焼売や明太子が乗ったりする。
その自由度もまた楽しい。自炊は気のまま、好き放題である。
自炊をする理由は人によって様々である。節約を目標とするのもまた楽しい。
崩した豆腐を飯にかけた豆腐丼や、ワカメだけの味噌汁で暮らせば随分と節約になる。
キャベツの炒め物や酒と醤油で炊いた味ごはん、めんつゆ納豆パスタなど安くて旨い節約レシピはいくらでもある。
安く済んだと思えば美味しさもひとしお、頑張ってやりくりする充実感から自己肯定感も上がる。
ただ、時間的コストも加味すれば自炊は節約にはなっていない気もする。
殊に独り暮らしの自炊はむしろマイナスであることも多い。
1人分の飯を炊いて味噌汁を作り、片づけて食器を洗う一連の行動はあまりに非効率的であると感じる。
スーパーで半額弁当を買うほうがずっと合理的だ。
空になった弁当容器はゴミ箱に投げ、後は居間にゴロンと転がっていればいい。
半額弁当は、断食に次ぐ2番目にコスパのよい節約と言える。
(「炊き出しに並ぶ」は移動コストや待ち時間を考え、ランク圏外とさせていただいた)
そう考えると自炊という行為の本質が見える。
己のためだけに時間と労力、しいては材料代までかけて一瞬で食べ終わってしまう飯を作る。
なんたる贅沢。
選ばれし者のみ許された極上の体験型アクティビティ、それが飯の支度です。
そう思える者だけ、この楽しい自炊を続けることができる。
大切なのは続けること、そして続ける理由を自分の内側に持つこと。
ここまで書いて腹が減った。
昨日入った原稿料で、今夜は日高屋に行きたい、いや行かねばなるまい。
頑張った自分に褒美を取らせよ。
何を注文するかはもう決まっている、イワシフライと生ビールである。
つけ合わせのキャベツ千切りに醤油をかけてビールを1杯。
カラシマヨネーズで2杯。
ほぐしたイワシをケチケチ齧って3杯飲める。
最後はレバニラ定食で〆る。シャキシャキのもやしが実に飯に合う、最高に結構だ──
自炊のコツは、あれこれ理由をつけてサボることです
<第37回に続く>42歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。